Trex70’s blog

特別支援教育士として、障害児の教育相談を2000組近く行い、引退後は、毎年200冊以上の本を分野に関係なく暇に任せて読んでいます。Trexはティラノサウルス・レックスのこと。大好きな恐竜です。

テロリストの家/著:中山七里

これは、学校の中でいじめに遭っても誰も助けようとしない、担任も見て見ぬふりする、そんなクラスも学校も嫌で、そんな人間たちが就職するこの国が嫌になった一人の女子高生が、イスラム国の兵士募集に応募したことが原因で起こった悲劇の物語だと私には思えた。

警視庁公安部には、国内の思想犯を取り締まる公安課と諸外国・国際テロを担当する外事課に分かれる。うち外事課も地域のよって以下のように三分される。

・外事第一課 ロシア及び東欧、中東担当

・外事第二課 中国、北朝鮮ほか東アジア

・外事第三課 国際テロ担当

警視庁公安部外事第三課に勤務する幣原勇一郎は、イスラム国のリクルーターの監視を終え本部に戻ると、内勤を命じられた。公安部でも自他ともに認めるエースと思っていた勇一郎には、新人でもできる書類整理をさせられる理由が分からなかった。

勇一郎の目の前に突然外事第三課の同僚3人が現れ、息子の秀樹を刑法第93条の「私戦予備及び陰謀罪」容疑で逮捕されてしまった。

「私戦」とは、国家の意思とはかかわりなく、自己の意思で個人的に外国に対して武力行使を行うことを意味する。「予備」とは、準備行為をいい、「陰謀」とは、謀議・画策を行うことをいう。

勇一郎にとっては青天の霹靂で、息子がイスラム国の兵士に応募したという事実を突きつけられて驚愕した。

勇一郎は、妻や娘からは息子を公安部に売ったと疑われ、組織からも監視対象として扱われた。また、警察の官舎に住んでいた幣原一家は、連日マスコミに押しかけられ、ネットやSNSで「馬鹿に育ってしまったのは親の責任」「テロリストの親」「非国民」「死刑にしろ。こいつも、家族も」「警察官のくせに」などの避難中傷の渦中に放り込まれた。

公安部で、イスラム国やリクルーターとの関係を尋問されていた秀樹は2日間で釈放された。秀樹は父親の詰問にも応えることなく、夜中、父親や公安部の監視の目を掻い潜って、家を抜け出した。秀樹が、その夜の内に死体となったとの知らせが家族に届けられた。一体誰が息子を殺したのか、イスラム国の関係者か、マスコミに感化された一般人か、それとも家族の誰かなのか。疑心暗鬼にかられる。

国民の命と安全を守っていると自負していた勇一郎は、考えれば考えるほど、家族のことが何も分かっていなかったことを知った。

娘や妻、義母との葛藤を抱えながら、また公安という仕事に不信感を抱きながらも犯人を割り出し、捜査一課の刑事の協力のもと逮捕した。

犯人を逮捕した後、息子が死に至った本当の原因が家族にあったことが分かった。

 

国とは何か、家族とはどうあるべきか、家族と仕事について、考えさせる物語だった。