Trex70’s blog

特別支援教育士として、障害児の教育相談を2000組近く行い、引退後は、毎年200冊以上の本を分野に関係なく暇に任せて読んでいます。Trexはティラノサウルス・レックスのこと。大好きな恐竜です。

慟哭は聴こえない/著:丸山正樹

デフ・ヴォイス

私のいないテーブルで

龍の耳を君に

刑事何森 孤高の相貌

刑事何森 逃走の行先

これらは全て、丸山氏の著書だ。

デフ・ヴォイスから、丸山氏の著作に興味を持ち読み漁った。

いずれも聴こえない人(聾者)について書かれたものだが、聴こえない言っても、

①生まれつき聴こえない人、

②中途で失聴し聴こえなくなった人、

③補聴器をつければある程度聴きとれる人、

④人工内耳の手術をし訓練をしてある程度聴き取りができるようになった人、

また、

⑤両親・兄弟姉妹とも健聴者で自分一人だけ聴こえない、

⑥両親・兄弟姉妹・本人とも聴こえない、

反対に

⑦両親・兄弟姉妹は聴こない人たちで本人だけ健聴(コーダ)者   と

本人、または家族の聴こえの状態の違いで、様々なドラマや事件があることを丸山氏は教えてくれた。

私もハローワークで、全く聴こえない人の就労のお世話をしたことがある。私自身は手話はまるっきりできないので、パソコンを使ってモニターに文字を打ち出し、相手はスマホを使って懸命にコミュニケーションをとって、企業に同行し再就職につなげた。

中には、書き文字が苦手もしくは分からない人もいた。こういう場合は手話ができる人が対応に当たっていた。家庭や学校で文字を教えてもらえずに大人になった人達だ。

丸山氏の本の中で、聾者は頭が悪い、手話を使うと馬鹿になると考える人がいるということが書かれていたことに驚いた。ハローワークに務める前、民間で障害児の教育をしていたのでそのようなことは考えたこともなく、どのように伝えれば理解してもらえるか、どうすれば確認できるか、伝わらないのはこちらの伝え方が悪いから、工夫が足りないからと思っていたのに。

昔、川渕依子著「手話は心」と山本おさむ著のコミック「どんぐりの家」を読んだが、手話を理解できる健聴者は少ないからと聾学校でも手話を禁止という、聾唖者の辛い歴史があったことは知っていた。

家族の中で自分一人が聴こえないという環境で、かつ誰一人手話を使わず、手話を禁止され、聴こえないのに口話を強制されるというのは、正しく発音できているかどうかも分からず、また、周囲からは変な声と笑われ、苦痛以外何もないのではと思った。

家族の中にいても、疎外感、孤独を感じ、家族から愛されていない、生まれてこなければ良かったと思ってしまう。

実際に、手話通訳士として、買い物や通院や障碍者手帳の取得や更新など日常生活、犯罪に巻き込まれた人の支援などで働いている人たちがいることに感動と尊敬の念を抱きます。

また、主人公のアラちゃんと何森刑事の反骨精神にも共鳴する。

 

 

 

 

 

 

 

 

不屈の達磨 社長椅子は誰のもの/著:安生正

再生可能エネルギーの送電施設を開発・運営し、5300人の従業員を擁する一部上場(プライム市場?)のジャパンテックパワー(JTP)の内紛を描いた話だった。

経済紙というよりもゴシップ紙に近い出版社が、社長のゴシップ記事を掲載した。その直後、株主総会が間近にもかかわらず社長が失踪した。

それに端を発して、副社長と常務による熾烈な後継者争いが勃発した。

不正行為を命令した副社長に逆らったために本社から九州に左遷された主人公が、社長の意向で本社の秘書室長として2年ぶりに戻ってきた。周囲は栄転と言うが、本人はどの派閥にも属さず、自分の職務だけを忠実に行うと決めていた。

ところが、失踪した社長のゴシップのために記者会見を行った副社長は釈明や経緯の状況説明を一切せず、また、マスコミの質問に対し喧嘩腰に対応し顰蹙を買った。

副社長は、メインバンクの頭取と大株主に自分を社長に推薦するようにと説得工作に奔走した。また、常務は社長になれたら、株主の中国系ファンドに40円の配当金を70円に増額し、優先株を発行し割り当てると空約束した。

しかし、両者とも社長としての器には届かない存在だった。

副社長は、メインバンクと大株主の支援が得られないと分かると早々に辞表を提出し退社した。

常務は部下を恫喝しながら社長になるべく、裏工作を続けた。

副社長、常務から恫喝や誘惑に翻弄される部長などの幹部を横目に、主人公は自身の保身よりも会社が生き残るためにはどうあるべきか、全従業員の生活を守るにはどうあるべきかを考えながら動き続けた。

そんな中で、他の重役たちはメインバンクと経産省と図り、元経産省の官僚を新社長に推薦し、常務の解任動議を取締役会議で提案した。

社長失踪から、元経産省からの新社長の推薦までの一連の流れは、経産省とメインバンクによって、当初から仕組まれていたことだった。

株主総会で、会社側の提案をすべて承認してもらうために中心になって動かないといけない総務部長は、副社長派だったためにやる気をなくし御座なりな対応になった。そのため、秘書室長の主人公は、本来の役割とは異なるが、主人公は不屈の達磨として奔走した。

 

経済小説だが、国が介入した事業で成功している

 

 

事例は少ないので、一時的には乗り切れても将来性の無い会社になるだろうと思いながら最後まで読んだ。

 

 

絡新婦の糸 警視庁サイバー犯罪対策課/著:中山七里

女郎蜘蛛とは、水辺に現れる雲の妖怪で、人の足に糸を絡めて水中に引き込むと言われている。題名にある「絡新婦」は、熟字訓。

 

アカウント名<市民調査室>と名乗り、SNS上でフェイク情報を流すものが現れた。

廃業寸前のお年寄りの夫婦が二人で切り盛りしているラーメン店の味噌ラーメン最高とツイートが、あっという間にバズり2週間ほど引きも切らない来客が訪れた。また、有名芸能人が覚醒剤を吸引しているとツイートがあった。ちょうど捜査2課が調査中だった案件だったため、証拠隠滅されないために慌てて逮捕に踏み切る騒動になった。

最初は、ただ食レポと宿レポを真面目にツイートしていただけだったが、その中に悪意を込めたフェイクニュースを密かに紛れ込ませだした。

巨額の不正経理が発覚した大学の理事長が、3000万円もする高級外車に乗っている。脱税でもしない限りは無理ではないかとツイートされた。また、コロナから立ち直りかけていた老舗高級ホテルが破綻寸前というフェイクニュースをツイートされ、宿泊予約のキャンセルが相次ぎ、倒産を恐れた金融機関から融資の引き上げの通告をされたために、経営者夫婦が保険金を返済や従業員の給料に補填してくれと遺書を残し自殺した。

絡新婦が操る子蜘蛛のように、真偽も確かめずに<市民調査室>を妄信、後追いするフォロワーがどんどん出てきた。

事の真偽を判断するためにネットの情報を利用する人は増えた。しかし、いつも正しい情報とは限らない。偏向や政治的思想、悪意や誤解や無理解がそのまま流されていることがある。

ネットの情報を鵜吞みにし、<市民調査室>がツイートしたことはすべて正しいとカルト教の信者のように信じたネット民が、<市民調査室>が取り上げた個人をネット上で叩き始めた。

死者も出ているため、放置するのは危険と判断しサイバー犯罪対策課が調査に乗り出した。

フェイクニュースやデマ投稿は業務妨害、犯罪になる可能性がある。

社会から自分を正当に評価してもらっていないと思う人たちが<市民調査室>のフォロワーになっているケースが多く、リツイ-トし賛同されることで自分の存在意義を感じ、よりのめり込んでいっている。

上場会社の社長個人のスキャンダルがツイートされ、株が連日のストップ安をつけた。オーナー会社だったため、会社の存続が心配される事件に発展した。

 

<市民調査室>は、個人への復讐なのか、ただの愉快犯なのか、サイバー犯罪対策課が調査していくと、足元に犯人がいた。

 

自分が意識しないまま、他人を傷つけるコメントを発信する可能性があること。また、悪意に利用されてしまう可能性もあること。今は、すぐに炎上する時代だから気をつけていかないといけないと思った。

 

 

 

エンド・オブ・ライフ/著:佐々涼子

作者の「エンジェルフライト 国際霊柩送還士」と「デフ・ヴォイス」を読んで、この本も読んでみようと手にとった。

「エンド・オブ・ライフ」とは、「人生の終末」。

健康な人から見た人生最期の時をどう迎えるかと、病に侵された人が人生の最期の時をどう迎えるか。人それぞれ考え方は異なる。

これは、終末期の患者がどういう医療を望むか、どのように家庭の中で過ごしたいのか、どんな風に最期の時を迎えたいのか、訪問医療を通し、患者と真っ正面から向き合い葛藤しつつ、患者本人と家族に寄り添い支え見送る京都の西加茂診療所の医師、看護師の思いを綴った本だ。この診療所は実在していた。

訪問医療というのは、決まった曜日・決まった時間に医師・看護師が家庭にやってきて必要な治療をして帰るだけと思っていた。しかし、西加茂診療所は、必要であればいつでも患者の所に駆け付ける。家族で行きたかった海に最後の思い出として行きたいと相談を受け、診療所のスタッフが海にも同行する。本当に寄り添っている。

今、介護施設はどこも人手不足の中でスタッフは懸命に働いている。

NHKの「お別れホスピス」も見ていて毎回涙が止まらないが、西加茂診療所のような施設や看護師や介護士がいるなんて奇跡のように思える。

ひと様から見ると我儘と思える患者の思いを叶えてあげる医師や看護師や介護士。訪れる死に対する恐怖をいかに和らげ終末を迎えさせるか。

また、介護している側の一人が末期癌になっていたことが分かる。今までの介護の経験が活きるかと思うとそうではなく、終末期を迎える一人の人間とした姿が描かれている。

私は、私の両親のように二人ともが意識の無い状態で1年以上も生き続けたような死を迎えたくない。私自身も癌を患って、今まで以上に死を身近に考えるようになった。しかし、自身の中で癌を受け入れる5段階なんていうのは無い。死ぬときはどうあがいても死ぬ。できる限り、家族に負担をかけないで最期を迎えられたら良いと思っている。私が居なくなった後、家族が幸せに暮らせれば良いと思っている。

家で最期を迎えるというのは、金銭面、身体面、精神面で家族に大変な負担を強いることになると思う。それが家族にとって後から大切な時間になるという考え方もあると思うが、それよりも私は、家族が自分自身の時間を大切にできるようにあって欲しい。

 

横着物の私には難しいことだが、一日一日を有意に過ごせるように生きていきたいと思った。

 

 

ボーダー 移民と難民/著:佐々涼子

読めば読むほど、日本という国に対して悲しくなっていく。

裏金疑惑で問題になっている自民党の主要メンバーが全員不起訴になろうとしている。大口の脱税をしても罪にならない人たちがいる。反面、子ども食堂が増えてきているが、子どもの6人に一人は貧困家庭であえでいるという調査がある。にもかかわらず、多くの税金を国会の審議・承認もなく、一握りの政治家の一存で外国に何千億、何兆円とばら撒く。一体この国はどこに向いて走っていこうとしているんだろう。

 

これは、佐々涼子が入管問題の神様と言われるほど活動している弁護士・児玉晃一や難民救済活動を行っている人たちの取材をして書いたドキュメンタリー小説だった。

国連では、「難民」と「移民」を次の通りに定義している。

「難民」とは「迫害の恐れ、紛争、暴力の蔓延など、公共の秩序を著しく混乱させることによって、国際的な保護の必要性を生じさせる状況を理由に、出身国を逃れた人々」

「移民」とは「ある場所から別の場所へ、生活のために(多くは仕事のために)、一時的または永久的に移動する人。移住の理由や法的地位に関係なく、定住国を変更した人々を国際移民とみなす。三カ月から十二カ月間の移動を短期的または一時的、一年以上にわたる居住国の変更を長期的または恒久移住と呼んで区別するのが一般的。」

ミャンマースリランカ、イラン、アフガニスタン、アフリカの国々から、政府からの迫害を逃れて日本に救いを求めてやってくる一般の人々がいる。

イランの小学校の朝礼で、教師たちがアメリカの国旗を燃やして、「ホメイニ万歳、アメリカに死を」と叫び、子どもたちに復唱を要求した。それに対し、「そんなことをするために、高い学費を払って学校に来ているわけじゃありません」と教師に言った。それだけのために「反政府思想の持ち主」と言われ、命を狙われるようになり、一家で国を脱出してきた。いったん観光ビザで入国したがオーバーステイとなり、十条にある入管施設に収容されてしまった(入管とは、2019年入国管理局から改称した「出入国在留管理庁」をいうが、狭義では、外国人を収容する施設を指す)。父親は男性房、母親と子供二人は女性房、ぎゅうぎゅう詰めの部屋でトイレは部屋の片隅にあって壁もなく、しゃがめば腰のあたりまで隠れるけど、臭いは漏れるし音は周りに筒抜けの人権意識などないに等しい収容所に入れられた。

一家に退去強制令書がでた。しかし、国外退去でイランに戻されると命の危険があるため、「難民」申請を行った。まるで映画の世界のように、イランでは市民が秘密警察のような組織に暗殺されたり、交通事故に見せかけて殺されたりしている。十代の娘が反政府的言動をし投獄されたこともある。

弁護士や市民団体が、劣悪な環境の下、収容者に対し日常的に暴力が行われており、電話を取り次ぐにも「胸を揉ませろ」と迫るなど、職員による強制わいせつや強姦もあると日本の入管の実態として報告している。心ある職員は、耐えられずに辞めていく。

この家族は、結局、裁判で敗訴し難民認定はされなかった。一家のもとにはイラン大使館から「早く訴訟をやめるように」と脅しの電話があり、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、危険が迫っているとの独自の難民認定をして、ノルウェーを受け入れ先にして逃がした。日本では認定されなかったのに。

2014年に牛久の入管施設で体調の急変を訴え続けたのに放置され亡くなったカメルーン人がいた。その家族が、2017年に国と牛久の入管施設のセンター長を相手取って裁判を起こした。地裁は、入管の対応に不備があったとして165万円の賠償を国側に命じた。(黒人だからなのか、命の値段が165万円?)。また、DV被害を訴えて交番に出向いたスリランカ人のウイシュマ・サンダマリさんは訴えは無視されたうえにオーバーステイの疑いで逮捕され、名古屋入管に収容された。体調の不良を訴えたにもかかわらず、適切な医療を受けずに亡くなって、親族が日本政府を訴えている。

白人と異なり、アジアやアフリカから来た人たちは、肌の色の違いだけで差別され、犯罪者でもないのに入管施設に収容されてしまうケースが多いのには驚いた。また、難民申請をしてもほとんどが通らない。2021年で、日本の難民認定率は74人(認定率0.7%)、ドイツは38918人(25.9%)、カナダが33801人(62.1%)、フランスが32571人(17.5%)、アメリカが20590人(32.2%)と日本の低さは際立っている。

入管法改正に当たって、特定非営利活動法人「難民を助ける会」元会長で、政府の難民審査の参与員の柳瀬房子は、2005年から17年間で担当した申請の案件は2000件以上あったが、認定すべきと判断できたのは6件だけと国会で答弁している。しかし、書類のうえでの判断で、面接や聞き取りはしていないという(一人に集中しすぎている。難民認定をすると次の審査の案件が回ってこなくなるというのが実態と他の審査員が述べている。)

日本で難民として認められない人たちは、非正規滞在者として入管に囚われる。その後、ビザを与えられないまま入管から「仮放免」として出される人もいる(何年も収容されたままの人もいる)。しかし、働くことが許されず、社会保障もない。行政に手を貸してもらう事も出来ない。どうやって生きて行けというのだろう。

日本に来るのが悪いという考えを持つ人もいると思う。

バブルで人手が足りなかったときは、こういう人たちを目を瞑って使い、バブルが弾けると切り捨てた。今は人手が無くって、困ってきている。安い労働力として最低賃金、もしくはそれ以下で働かせているところもある。不法移民が多くなり、トランプ元大統領のように移民や難民を受け入れないところもあるが、日本はそれ以前の問題だ。

今は、日本の経済成長の鈍化によって、日本以外の地域で働いた方が良い。日本で働くメリットが感じられないと、日本に働きに来る人がどんどん減ってきている。

国連から何度も改善するように勧告を受けても、無視し続けている国。どこが先進国と言えるのだろうか。白人以外の外国人に冷たく、日本人にも冷たい国。このままでいいのだろうか。

 

涙が止まらなかった。このブログを読んでいただいている人がいたら、是非、この本を読んでいただければと願います。

 

 

 

ファントムの病棟 天久鷹央の推理カルテ[完全版]/著:知念実希人

これは、3年前に読んだ「天久鷹央の推理カルテⅡ」の加筆修正版だった。プロローグを読んで、以前読んだことがあることに気づいた。よく確かめもせずに手にしてしまって少し後悔したが、思い出しながら読めてよかった。

主人公の天久鷹央は、先天的に『他人の立場に立って考える』という能力が欠落しているためチーム医療には向かない。しかし、天才的な知識をもち「診断医」として天医会総合病院統括診断部部長をしていた。

この本は、3つの短編から構成されている。

<目次>

〇プロローグ

少年の最期を看取る医師たちが、鷹央を待っている。

〇karte.01 甘い毒

1日に3.5Lのコーラを飲み続けるトラック運転手が、運転中に体が痺れ意識が朦朧となり電柱にぶつかる自損事故を起こした。天医会総合病院に救急搬送された運転手は、コーラに毒が混入されていたからだと主張した。脳のCTや毒物検査をしても異常は見つからなかった。主治医は異常がないと退院させたが帰宅途中で意識を消失し、再度、病院に救急搬送されてきた。鷹央が謎の症状を解明する。

〇karte.02 吸血鬼症候群

療養型の倉田病院で、夜な夜な病院に吸血鬼が現れると看護師が鷹央に泣きついてきた。看護師は天医会総合病院に昨年の夏まで勤めていた久保美由紀だった。患者に輸血するために用意していたA型の血液パックが盗まれた。病院の廊下から病室へ血が点々と続き、歯で引きちぎられた空っぽの血液パックが転がっていた。倉田病院の院長の誤診が引き起こした事件だった。

〇karte.03 天使が舞い降りる夜

小児病棟の病室で天使を見たと看護師と8歳の少年が言う。それは鷹央が研修医の時に診た子どもだった。急性リンパ性白血病の抗ガン剤治療で髪の毛が殆ど無くなっていた。少し状態が良くなったので、できるだけ自宅で過ごさせたいと一旦退院になった。しかし、微熱が続き再入院となった。母親は少年の介護をするために個室に入院させていた。

天使は、髪の毛の無いことを揶揄った少年の病室の隣の中学生の少年たちが作り出したものだった。

鷹央は医者の自分に救えない命に対し、無力感に苛まれていた。

〇エピローグ

〇書き下ろし掌編 ソフトボールと真鶴

 

天才女医が「診断」で解決していく医療ミステリー。完結ではなくミステリーの続編が欲しい。

 

 

 

いまこそガーシュウイン/著:中山七里

岬洋介シリーズ8作目。

「ガーシュウイン」ってなんだろうというところから入った。

20世紀前半に活躍したアメリカの作曲家ジョージ・ガーシュインのことだった。

最初に紹介される「前奏曲第2番嬰ハ短調」をyoutubeで聴いてみた。本文にもあったが、私にはクラシックというよりジャズのように思えた。

エドワード・オルソンは、アメリカで指折りのピアニストになっていた。エドワードはコンサートでガーシュウインの曲を演奏しようと練習していた。しかし、大統領選挙にヘイトスピーチで人心を煽るレイシスト共和党員が立候補し、その影響で人種差別が激化し、「Black Lives Matter!(黒人の命は大切だ)」のシュプレヒコールのデモも終日で起り、集中して練習ができなかった。

エドワードは、このままではアメリカは2つに分裂してしまうという危惧を抱き、音楽で何かできないかと模索した。そこで3カ月後に決まったカーネギーホールでのコンサートで、ガーシュウインの「ラプソディ・イン・ブルー」を弾くことを思い立った。

ラプソディ・イン・ブルーは、黒人音楽をルーツに持つクラシックなのでレイシストたちの心を溶かし、聴衆に融和を訴えることができると考えた。 

しかし、ガーシュウインでは、ショパンやベートーベンを期待している客を呼べないとマネージャーのセリーナ・ジョーンズは反対した。そこで、エドワードはノクターン1曲でアフガニスタンの戦闘を一時ストップさせ、24人の命を救った「奇跡の5分間」の岬洋介との共演を思いついた。岬洋介とはショパンコンクールで出会っていた。

セリーナは、岬のマネージャー・マーティンとコンタクトをとり、洋介と契約することができた。岬はエドワードの家に泊まり込むことになり、2人で「ラプソディ・イン・ブルー」の練習に励んだ。

演奏はニューヨーク・フィルだが、一部パートをオーディションで複数の人種、複数の民族から選ぶことにした。クラリネット1人とトランペット2人を加えた

一方、新大統領に恐れていたレイシスト共和党員が選ばれてしまった。新大統領は、自社ビルの68階のペントハウスに住む不動産王。アメリカへの不法移民を止めるため、メキシコとの国境に壁を作る法案を通した。このままでは、ますます人種差別が激化すると懸念する一団が、<愛国者>と呼ばれる暗殺者を手配し、新大統領の殺害を謀った。

岬とエドワードがカーネギーホールでのコンサートの杮落しに、大統領夫妻が来ることになった。

愛国者>は会場で暗殺を実行するために、ニューヨーク・フィルの新パートとして潜入した。

 

ミューズに「愛されるもの」と「愛するもの」の違い。<愛国者>も音楽を愛する者だった。

本文の最期まで<愛国者>が誰なのかは分からない構成で、引き込まれた。

貧しさと人種差別、富める者と貧者、日本も格差が広がってきている。世界が平和に融和するようにと願う作者の思いに共感した。

 

 

 

 

一方、新大統領の暗殺計画を進めていた〈愛国者〉は、依頼主の男から思わ提案をされー一。
音楽の殿堂、カーネギーホールで流れるのは、憎しみ合う血か、感動の涙か。