架空犯/東野圭吾
都内の高級住宅地で火災事故が起こり、焼け跡から都議会議員の夫と元女優の妻の死体が発見された。当初夫を絞殺した妻が後追い自殺をした無理心中と思われた。しかし、妻には紐状のもので首を絞められた後に浴室で自殺をしたように見せる偽装工作がされていたことが判明した。
警視庁と所轄署の合同捜査本部が立ち上がり、切れ者と言われる捜査1課の五代巡査部長と所轄の生活安全課の山尾警部補がコンビとなり捜査に当たった。
殺人現場には、犯人の証痕跡は当初一切見つからなかった。都知事事務所に犯人から、「人として許されない行為を繰り返していた二人に制裁が加えた。制裁を天中と言い換えてもいい」と書かれた犯行声明文と脅迫状が届いた。二人はなぜ殺されたのか。
現場から無くなっていたものは何か。なぜ2人のスマホが持ち去られずに置かれていたのか。夫婦の周辺からは情報がなかなか集まってくることは無かった。
捜査を進めていく内に、事件の根底には何十年も前の高校時代の出来事があるのがわかった。山尾警部補が殺したのは自分だと自供したが裏取りができず、事件は混迷を深めた。
456頁最後まで読み切らないと真犯人も分からず、犯行の動機も分からず、また、殺人事件の真相も分からない。 読み応えのある小説だった。
一人の奔放な女子高生が行いが不幸の連鎖を起こしていた。
2024年は、癌の放射線治療や心臓のカテーテル手術で病院通いが1年でしたが、何とか213冊の本と出合うことができました。
諸葛亮(下)/宮城谷昌光、高校事変16 /松岡圭祐、大量絶滅はなぜ起きるのか 生命を脅かす地球の異変/尾上哲治、いまこそガーシュウィン/中山七里、ファントムの病棟 天久鷹央の推理カルテ完全版/知念実希人、天を測る/今野敏、小説みたいに楽しく読める脳科学講義/大隅典子、ボーダー 移民と難民/増えた年でしたが佐々涼子、デフ・ヴォイス/丸山正樹、出署拒否 巡査部長・野路明良/松嶋智佐、たすけ鍼 天神参り/山本 一力、ウミドリ 空の海上保安官/梶永正史、刑事何森 孤高の相貌/丸山正樹、真田の具足師/武川佑、ゼロの迎撃/安生正、エンド・オブ・ライフ/佐々涼子、公安外事・倉島警部補 台北アセット/今野敏、ブレイク/真山仁、天久鷹央の推理カルテ 完全版/知念実希人、時限病棟/知念実希人、ブラッドライン/知念実希人、百鬼大乱 /真保裕一、半暮刻/月村了衛、絡新婦の糸 警視庁サイバー犯罪対策課/中山七里、不屈の達磨 社長の椅子は誰のもの/安生正、売国/真山仁、龍の耳を君に/丸山正樹、慟哭は聴こえない/丸山正樹、刑事何森 逃走の行先 逃女/丸山正樹、こちら空港警察/中山七里、戦国女刑事/横関大、真夜中法律事務所/五十嵐律人、わたしのいないテーブルで/丸山正樹、化石に眠るDNA 絶滅動物は復活するか/更科功、時限発症 検疫官 西條亜矢の事件簿/仙川環、スクープを狙え! 中央新聞坂巻班/仙川環、吠えろ!坂巻記者/仙川環、ecriture新人作家・杉浦李奈の推論Ⅸ 人の死なないミステリ/松岡圭祐、襲撃犯/安生正、アジア人物史14ー17世紀 ポスト・モンゴル時代の陸と海/姜尚中・他、暗殺者/安生正、漂う子/丸山正樹、まほろ駅前多田便利軒/三浦しをん、まほろ駅前狂騒曲/三浦しをん、天使の柩/村山由佳、星間商事株式会社/三浦 しをん、ecriture新人作家・杉浦李奈の推論Ⅹ 怪談・一夜草紙の謎/松岡圭祐、記者はつらいよ 中央新聞坂巻班/仙川環、CD付 英語で読む世界昔ばなし4/ベンジャミン・ウッドワード、ラプラスの魔女/東野圭吾、ecriture新人作家・杉浦李奈の推論Ⅺ 誰が書いたかシャーロック/松岡圭祐、いつもが消えた日/西條奈加、倒産手続きの彼女/新川帆立、能面検事/中山七里、伊桜里 高校事変劃篇/松岡圭祐、まぼろしを織る/ほしおさなえ、バスカヴィル家の犬/ アーサー・コナン・ドイル、出雲のあやかしホテルに就職します⑮/ 硝子町玻璃、青春をクビになって/額賀澪、元彼の遺言状/新川帆立、非弁護人/月村了衛、夫よ、死んでくれないか /丸山正樹、まち/小野寺史宜、夏空 東京湾臨海署安積班/今野敏、天久鷹央の推理カルテ 吸血鬼の原罪/知念実希人、もぐら0 影野竜司/矢月秀作、大正幽霊アパート 鳳銘館の新米管理人7/竹村優希、マガツキ/神永学、あい 永遠に在り/高田郁、ファイアマンの遺言/秦建日子、土地神様のわすれもん/新井輝、サンライズ・サンセット/山本一力、デジタル時代の恐竜学/河部壮一郎、警視庁特務部逮捕特科 アレストマン/矢月秀作、悪魔の審判/神永学、風に立つ /柚月裕子、神秘なるオクトパスの世界/サイモン・ゴメリー、天久鷹央の推理カルテ(完全版)悲恋のシンドローム/知念実希人、ビジネス教養・超速アップデート 図解版人類の起源/篠田謙一、道警・大通警察署 警官の酒場/佐々木譲、悪魔と呼ばれた男/神永学、対決/月村了衛、当確師 正義の御旗/真山仁、彷徨う者たち/中山七里、道警・大通警察署 樹林の罠 /佐々木譲、となりのナースエイド/知念実希人、水族館飼育係だけが見られる世界 毎日は発見と感動に満ちている/下村実、嘘つきジェンガ/辻村深月、高校事変17/松岡圭祐、JKⅢ/松岡圭祐、偽証法廷/小杉健治、サピエンス前史 脊椎動物の進化から人類に至る5億年の物語/土屋健、一夜 隠蔽操作10/今野敏、トウキョウマンション/石川智健、もみ消しはスピーディーに/ 石川智健、カナリア外来へようこそ/仙川環、おれは非情勤/東野圭吾、最強の恐竜/田中康平、世界史のなかの沖縄返還/成田千尋、ヒポクラテスの悲嘆/中山七里、真夜中のマリオネット/知念実希人、金融探偵/池井戸潤、トンボハンドブック/尾園暁、鬼はもとより/青山文平、真夏の方程式/東野圭吾、廻天流炎 警視庁暗殺部D1 /矢月秀作、透明な螺旋/東野圭吾。流水浮木 最後の太刀/青山文平、塞王の楯/今村祥吾、童の神/今村祥吾、ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人/東野圭吾、虚像の道化師/東野圭吾、クスノキの番人/東野圭吾、ブラック・ショーマンと覚醒する女たち/東野圭吾、禁断の魔術/東野圭吾、虚ろな十字架/東野圭吾、鬼の哭く里/中山七里、ファラオの密室/白川尚史、詐欺師と詐欺師/川瀬七緒、クスノキの女神/東野圭吾、ダーティ・ママ/秦建日子、ドリフター/梶永正史、水葬の迷宮 警視庁特捜7/ 麻見和史、白鳥とコウモリ/東野圭吾、競争の番人 内偵の王子/新川帆立、ダーティ・ママ2 ハリウッドへ行く/秦建日子、神奈川県警オタク担当細川春菜/鳴神響一、幸村を討つ/今村翔吾、瑕疵借り ー奇妙な戸建てー /松岡圭祐、高校事変18/ 松岡圭祐、裁判官三渕嘉子の生涯/伊多波碧、新心霊探偵八雲 赤眼の呪縛/神永学、伊桜里 高校事変劃篇/松岡圭祐、因縁/福田和代、推しの殺人/遠藤かたる、令和その他のレイワにおける健全な反逆に関する架空六法/新川帆立、亡国の脱税「納税するつもりはございません」/大村大次郎、女の国会/ 新川帆立、スリーアーミーゴス バッドカンパニーⅢ /深町秋生、掟上今日子の推薦文/西尾維新、三渕嘉子 日本初の女性弁護士/長尾剛、夜明けを待つ/佐々涼子、母の待つ里/浅田次郎、紙つなげ!彼らが本の紙を造っている 再生・日本製紙石巻工場/佐々涼子、甘美なる誘拐/平居紀一、密室黄金時代の殺人 雪の館と六つのトリック/鴨崎暖炉、天国の修羅たち/深町秋生、バッドカンパニー Ⅰ/深町秋生、ただいま神様当番/青山美智子、ビブリア古書堂の事件手帖Ⅳ~扉子たちと継がれる道~/三上延、祓い師笹目とウツログサ/ほしおさなえ、Across the Universe/秦建日子、失われた古代文明 歴史に消えた40の民族/フィリップ・マティザック、海風/今野敏、日本を覆う8割の絶望と2割の希望/辛坊治郎、哺乳類の興隆史 恐竜の陰を出て、新たな覇者になるまで/ステーヴ・ブルサッテ、学名で楽しむ恐竜・古生物/土屋 健、ゼロから楽しむ古生物 姿かたちの移り変わり/ 土屋 健・香、検事・沢木正夫 共犯者/小杉 健治、影の中の影 月村 了衛、「コーダ」のぼくが見る世界 聴こえない親のもとに生まれて/五十嵐大、おっせかいな化石案内/芝原曉彦、Change the World/秦建日子、碁盤斬り 柳田格之進異聞/加藤正人、下級国民A/赤松利市、海を破る者/今村翔吾、帰る家がない少年院の少年たち/中村すえこ、エレジーは流れない/三浦しおん、ニューカルマ/新庄耕、ビタートラップ/月村了衛、組長刑事 叛逆/南英男、ジョン万次郎の失くしもの 浮世奉行と三悪人/田中啓文、処方箋のないクリニック 特別診療/仙川環、ダブルマザー/辻堂ゆめ、ニチョウ 東京地検特捜部特別分室/落合洋司、機龍警察 火宅/月村了衛、香港警察東京分室/月村了衛、わが名はオズヌ/今野敏、時空の巫女/今野敏、てらこや青義堂 師匠、走る/今村翔吾、処刑国会/沢村鐵、高校事変19/松岡圭祐、バッタを倒すぜアフリカで/前野ウルド浩太郎、またうど/村木嵐、警視庁機動分析捜査官・天埜唯 極夜①シャドウファイア/沢村鐵、くらまし屋稼業 風待ちの四傑/今村翔吾、右利きのヘビ仮説 追うヘビ、逃げるカタツムリの右と左の共振化/細 将貴、正義の証明(上)/森村誠一、正義の証明(下)/森村誠一、浮雲心霊奇譚 邪鬼の泪/神永学、恐竜最後の日 小惑星衝突は地球をどのように変えたのか/ライリー・ブラック、ミッドナイトサン/沢村鐵、謎掛鬼 警視庁捜査一課・小野瀬遥の黄昏事件簿/沢村鐵、作家刑事毒島の暴言/中山七里、ドクター・デスの再臨/中山七里、天久鷹央の事件カルテ⑨ 絶対零度のテロル/知念実希人、くらまし屋稼業/今村翔吾、地面師たち ファイナル・ベッツ/新庄耕、左太夫伝/佐々木譲、脱北航路/ 月村了衛、続シャーロック・ホームズ対伊藤博文/松岡圭祐、有罪、とAIは告げた/中山七里、もうひとつの評決/小杉健治、京女殺人法廷 裁判員制度元年/姉小路祐、スペイン語日本紹介事典 JAPANPEDIA/IBCブリッシング、犯罪被害者支援課二係・北星峻介 もう一人のガイシャ/姉小路祐、救いたくない命 俺たちは神じゃない2/中山祐次郎、虎の尾 渋谷署強行犯係/今野敏、死の扉/小杉健治、小さな人生論 致知の言葉/藤尾秀昭、弁護士・水田佳 電網私刑/小杉健治、追想の探偵/月村了衛、架空犯/東野圭吾
クスノキの女神/著:東野圭吾
癌の放射線治療の最中に心臓の疾患が見つかり、6月に心臓カテーテル手術を行い、バルーンとステントを入れたが、散歩も思うようにできず、読書もあまり進まなかった。そんな中で感銘を受けた作品に出合った。
これは『クスノキの番人』の2作目。
東野の本は殺人事件と謎解きが主流になっていると思うが、これらの作品は違った。
『女神』では、さまざまな悩みを抱えた登場人物達が「未来」について投げかける。
主人公は直井玲斗は、非嫡出子として母子家庭で育った。その母親が若くして亡くなり祖母と暮らしたが、貧しさの中で何一つ贅沢もできず工業高校だけは出たが、将来に対し夢も持てず流されるように生きてきた。
就職先が倒産し再就職した町工場はブラック企業だった。他人のミスで不当な配置転換をされたうえに給料不払いで解雇された。その為、生活に行き詰まり給料分を取り返そうと工場に盗みに入ったが、逃げる際にミスをして証拠を残し逮捕され、賠償金も請求されてしまう。そこに突然、弁護士が現れ、依頼人の命令を聞くなら釈放し借金も肩代わりしてくれると提案され、他に術がないため従うことになった。
依頼人は有名な観光業の創始者一族の柳澤千舟で、母親の異母姉だった。伯母の千舟とは赤ん坊の時に会っただけで、記憶にすらなかった。千舟の命令は、柳澤家の月郷神社のクスノキの番人になることだった。
クスノキは、新月に「祈念」者の思いを預かり、満月に「祈念」者にその思いを授ける(返す)不思議な力を宿していた。しかし、祈念の意味や内容は伯母の千舟から教えてもらえなかった。
2作目の『クスノキの女神』は、月郷神社に妹と弟を連れた高校生の早川佑紀奈は、自作の詩集を1冊200円で売って欲しいと訪れるところから始まる。
詩集はコピー用紙をホッチキスで止めた手作りのもので、玲斗は売れそうにないと思ったが神社で預かることにした。その詩集をお金も払わずに読み、持ち去ろうとした男がいた。男の名前は久米田康作。母親は千舟の小学校時代の同級生久米田松子。材木商を営んでいた久米田家は松子の夫の死後、事業が傾き廃業した。
甘やかされて育った一人息子の康作は堪え性がなく仕事が続かなかった。定職にも就かずお金も無くなり地元在住の実業家森部俊彦に5万円で売った、ジャガーマスクの覆面が100万円の価値があると知り、取り返そうと森部家に盗みに入り逮捕された。康作はただ盗んだだけですぐに逃げたと言い張っていたが、森部は灰皿で頭を叩かれ現金を奪われていた。
康作の主張通りだともう一人犯人がいることになるが、一切弁明をしなかった。康作は月郷神社で出会った佑紀奈の詩集に心を動かされ、こんな自分でも人の役に立ちたいと佑紀奈の犯行について語らなかった。
佑紀奈は母子家庭で、母親は脳脊髄液減少症という病気で思うように働くことができず、生活保護と児童手当で生計を立てていた。生活費を稼ぐために佑紀奈はパパ活をし、森部に襲われそうになり思わず灰皿で頭を殴って身を守った。そのついでにお金を持ち逃げしていた。
軽度認知症で通院のため千舟に付き添っていた病院で、玲斗は認知症カフェで出会った中学生の上野元哉と再会した。元哉は脳腫瘍の手術の後遺症で一晩寝ると前日の記憶がすべて消えてしまう高次脳機能障害だった。千舟と同じ記憶が無くなるという少年に玲斗は心を砕いた。
元哉が玲斗に会うために訪れた月郷神社で佑紀奈の詩集を読んだとき、クスノキの絵を描いた。その絵を見て玲斗は元哉の感性に驚き、佑紀奈と元哉を引き合わせた。二人は意気投合し、佑紀奈の創作話から、元哉が絵を描くという形で「少年とクスノキ」の絵本作りが始まった。
未来を知るために旅に出た少年が、やっとクスノキの女神に出会う。
絵本の結末で、「生きてるかぎり、あなたはそれらのすべてに感謝すべきなのです。昨日までのことなど振り返らなくていいのです。あの時に、ああしていればとか、あんなふうにしなければよかったと悔いることに意味はありません。それらはすべて済んでしまったことだからです。同じように、明日からのことを案じる必要もありません。これからどうなるかとか、どうすべきかなど、考えることに意味などないのです。それらはまだ起きていないからです。大切なのは今です。今、健全な心を持っていられるのなら、それで幸せなのです。今のあなたが存在することをありがたいと思い、感謝しなさい。そうすれば昨日までのことなど気にならず、明日からのことも不安ではなくなります」とクスノキの女神が語る。
軽度認知症の千舟も元哉も記憶が残らない。玲斗も生活苦で犯罪を犯した佑紀奈も明日のことなど考えられないでいた。未来に何の希望も期待もしていなかったが4人が絵本を通して変わる。
「未来についてあれこれ考えるなんて馬鹿げたことだ。大事なことは、今、好きな人たちと一緒にいて、自分が生きていると実感できるなら、それで十分に幸せなんだと思える」という言葉を佑紀奈に残し、元哉がクスノキの洞で受念をしながら亡くなってしまうのは寂しいけれど、幸せに逝けたこと救われる。
風に立つ/著:柚月裕子
3月にブログを書いてから、3ヶ月間新たに書く気力が湧かなかった。昨年、癌の手術をしたが、腫瘍マーカーの数値が期待するほどには下がらず、逆に上がってきたために2ヶ月間の放射線治療を受けた。しかし、数値にはほとんど変化が無かった。
後遺症なのか、疲れやすくなり、また、体重が増加し、集中力も続かなくなってきた。一昨年まで260冊ほど読めていたのに、昨年は辛うじて200冊オーバー。今年は、まだ70冊も読めていない。でも、5年生存率は100%なので、気楽に生きていこうと思う。
この『風に立つ』は、南部鉄器の職人小原孝雄が、家族に一言の相談もなく「補導委託」を引き受けたことから、物語が始まる。
岩手の南部鉄器の製造には、砂に粘着剤を入れてアルミ等の型でプレスして型を作る安価で量産できる「生型」と、粘土状の型に一つ一つ手作業に寄り模様をつけたものを素焼きにして鉄を流し込む「焼型」がある。
孝雄は手作り(焼型)に拘る頑固一徹の仕事一筋の職人だった。
問題を起こし家裁に送られてきた17歳の少年・春斗を突然小原家で預かることになった。
孝雄の工房・清嘉は、孝雄と不惑に近い独り身の悟、悟の生まれる前から働いている健人の3人で鉄瓶を手作りし販売していた。時折、嫁いだ悟の妹が店を手伝っていた。
孝雄は必要な事以外はほとんど話すことが無い人だった。悟は子ども頃から孝雄に褒められた思い出もなく、家族に関心が無い人だと思っていた。そんな孝雄がどうして他人の子どもの世話をすると言い出したのか訳が分からず、補導委託に賛成できず、預かった春斗に距離を置いていた。
自分の気持ちを外に出さない春斗は、カプセルトイを大量に買い込んだり、突然切れたり、いつ爆発するか分からない爆弾を心の内に秘めていた。そんな春斗に孝雄や健人は親身に接していた。
チャグチャグ馬コを見たいという春斗の希望で工房を休みにし、孝雄たちは一緒に出掛けた。自分が何をやりたいのか分からず、悶々としていた春斗は馬に触れ合うことで自分の進む道が見えてきた。
しかし、貧困の中で苦労しながら弁護士事務所を持った父親・達也と母子家庭で育った母親・緑の我が子には苦労をさせたくない、幸せな人生を送ってほしいという思いと春斗の思いが衝突してしまった。
そんな中で、悟から家族に無関心だと思われていた孝雄の達也よりも悲惨だった家庭環境を知ることになる。
幸せとは、・・・・一人ひとり感じること思うことは異なる。
伝わらない思い、生き方、家族への思い、ありようについて考えさせられる。
大庭裁判官の「みなさん、今日はお疲れさまでした。では、これで、中間審判を・・・・」の言葉からの最後の50ページには感動し涙が出た。
慟哭は聴こえない/著:丸山正樹
デフ・ヴォイス
私のいないテーブルで
龍の耳を君に
刑事何森 孤高の相貌
刑事何森 逃走の行先
これらは全て、丸山氏の著書だ。
デフ・ヴォイスから、丸山氏の著作に興味を持ち読み漁った。
いずれも聴こえない人(聾者)について書かれたものだが、聴こえない言っても、
①生まれつき聴こえない人、
②中途で失聴し聴こえなくなった人、
③補聴器をつければある程度聴きとれる人、
④人工内耳の手術をし訓練をしてある程度聴き取りができるようになった人、
また、
⑤両親・兄弟姉妹とも健聴者で自分一人だけ聴こえない、
⑥両親・兄弟姉妹・本人とも聴こえない、
反対に
⑦両親・兄弟姉妹は聴こない人たちで本人だけ健聴(コーダ)者 と
本人、または家族の聴こえの状態の違いで、様々なドラマや事件があることを丸山氏は教えてくれた。
私もハローワークで、全く聴こえない人の就労のお世話をしたことがある。私自身は手話はまるっきりできないので、パソコンを使ってモニターに文字を打ち出し、相手はスマホを使って懸命にコミュニケーションをとって、企業に同行し再就職につなげた。
中には、書き文字が苦手もしくは分からない人もいた。こういう場合は手話ができる人が対応に当たっていた。家庭や学校で文字を教えてもらえずに大人になった人達だ。
丸山氏の本の中で、聾者は頭が悪い、手話を使うと馬鹿になると考える人がいるということが書かれていたことに驚いた。ハローワークに務める前、民間で障害児の教育をしていたのでそのようなことは考えたこともなく、どのように伝えれば理解してもらえるか、どうすれば確認できるか、伝わらないのはこちらの伝え方が悪いから、工夫が足りないからと思っていたのに。
昔、川渕依子著「手話は心」と山本おさむ著のコミック「どんぐりの家」を読んだが、手話を理解できる健聴者は少ないからと聾学校でも手話を禁止という、聾唖者の辛い歴史があったことは知っていた。
家族の中で自分一人が聴こえないという環境で、かつ誰一人手話を使わず、手話を禁止され、聴こえないのに口話を強制されるというのは、正しく発音できているかどうかも分からず、また、周囲からは変な声と笑われ、苦痛以外何もないのではと思った。
家族の中にいても、疎外感、孤独を感じ、家族から愛されていない、生まれてこなければ良かったと思ってしまう。
実際に、手話通訳士として、買い物や通院や障碍者手帳の取得や更新など日常生活、犯罪に巻き込まれた人の支援などで働いている人たちがいることに感動と尊敬の念を抱きます。
また、主人公のアラちゃんと何森刑事の反骨精神にも共鳴する。
不屈の達磨 社長椅子は誰のもの/著:安生正
再生可能エネルギーの送電施設を開発・運営し、5300人の従業員を擁する一部上場(プライム市場?)のジャパンテックパワー(JTP)の内紛を描いた話だった。
経済紙というよりもゴシップ紙に近い出版社が、社長のゴシップ記事を掲載した。その直後、株主総会が間近にもかかわらず社長が失踪した。
それに端を発して、副社長と常務による熾烈な後継者争いが勃発した。
不正行為を命令した副社長に逆らったために本社から九州に左遷された主人公が、社長の意向で本社の秘書室長として2年ぶりに戻ってきた。周囲は栄転と言うが、本人はどの派閥にも属さず、自分の職務だけを忠実に行うと決めていた。
ところが、失踪した社長のゴシップのために記者会見を行った副社長は釈明や経緯の状況説明を一切せず、また、マスコミの質問に対し喧嘩腰に対応し顰蹙を買った。
副社長は、メインバンクの頭取と大株主に自分を社長に推薦するようにと説得工作に奔走した。また、常務は社長になれたら、株主の中国系ファンドに40円の配当金を70円に増額し、優先株を発行し割り当てると空約束した。
しかし、両者とも社長としての器には届かない存在だった。
副社長は、メインバンクと大株主の支援が得られないと分かると早々に辞表を提出し退社した。
常務は部下を恫喝しながら社長になるべく、裏工作を続けた。
副社長、常務から恫喝や誘惑に翻弄される部長などの幹部を横目に、主人公は自身の保身よりも会社が生き残るためにはどうあるべきか、全従業員の生活を守るにはどうあるべきかを考えながら動き続けた。
そんな中で、他の重役たちはメインバンクと経産省と図り、元経産省の官僚を新社長に推薦し、常務の解任動議を取締役会議で提案した。
社長失踪から、元経産省からの新社長の推薦までの一連の流れは、経産省とメインバンクによって、当初から仕組まれていたことだった。
株主総会で、会社側の提案をすべて承認してもらうために中心になって動かないといけない総務部長は、副社長派だったためにやる気をなくし御座なりな対応になった。そのため、秘書室長の主人公は、本来の役割とは異なるが、主人公は不屈の達磨として奔走した。
経済小説だが、国が介入した事業で成功している
事例は少ないので、一時的には乗り切れても将来性の無い会社になるだろうと思いながら最後まで読んだ。
絡新婦の糸 警視庁サイバー犯罪対策課/著:中山七里
女郎蜘蛛とは、水辺に現れる雲の妖怪で、人の足に糸を絡めて水中に引き込むと言われている。題名にある「絡新婦」は、熟字訓。
アカウント名<市民調査室>と名乗り、SNS上でフェイク情報を流すものが現れた。
廃業寸前のお年寄りの夫婦が二人で切り盛りしているラーメン店の味噌ラーメン最高とツイートが、あっという間にバズり2週間ほど引きも切らない来客が訪れた。また、有名芸能人が覚醒剤を吸引しているとツイートがあった。ちょうど捜査2課が調査中だった案件だったため、証拠隠滅されないために慌てて逮捕に踏み切る騒動になった。
最初は、ただ食レポと宿レポを真面目にツイートしていただけだったが、その中に悪意を込めたフェイクニュースを密かに紛れ込ませだした。
巨額の不正経理が発覚した大学の理事長が、3000万円もする高級外車に乗っている。脱税でもしない限りは無理ではないかとツイートされた。また、コロナから立ち直りかけていた老舗高級ホテルが破綻寸前というフェイクニュースをツイートされ、宿泊予約のキャンセルが相次ぎ、倒産を恐れた金融機関から融資の引き上げの通告をされたために、経営者夫婦が保険金を返済や従業員の給料に補填してくれと遺書を残し自殺した。
絡新婦が操る子蜘蛛のように、真偽も確かめずに<市民調査室>を妄信、後追いするフォロワーがどんどん出てきた。
事の真偽を判断するためにネットの情報を利用する人は増えた。しかし、いつも正しい情報とは限らない。偏向や政治的思想、悪意や誤解や無理解がそのまま流されていることがある。
ネットの情報を鵜吞みにし、<市民調査室>がツイートしたことはすべて正しいとカルト教の信者のように信じたネット民が、<市民調査室>が取り上げた個人をネット上で叩き始めた。
死者も出ているため、放置するのは危険と判断しサイバー犯罪対策課が調査に乗り出した。
フェイクニュースやデマ投稿は業務妨害、犯罪になる可能性がある。
社会から自分を正当に評価してもらっていないと思う人たちが<市民調査室>のフォロワーになっているケースが多く、リツイ-トし賛同されることで自分の存在意義を感じ、よりのめり込んでいっている。
上場会社の社長個人のスキャンダルがツイートされ、株が連日のストップ安をつけた。オーナー会社だったため、会社の存続が心配される事件に発展した。
<市民調査室>は、個人への復讐なのか、ただの愉快犯なのか、サイバー犯罪対策課が調査していくと、足元に犯人がいた。
自分が意識しないまま、他人を傷つけるコメントを発信する可能性があること。また、悪意に利用されてしまう可能性もあること。今は、すぐに炎上する時代だから気をつけていかないといけないと思った。
エンド・オブ・ライフ/著:佐々涼子
作者の「エンジェルフライト 国際霊柩送還士」と「デフ・ヴォイス」を読んで、この本も読んでみようと手にとった。
「エンド・オブ・ライフ」とは、「人生の終末」。
健康な人から見た人生最期の時をどう迎えるかと、病に侵された人が人生の最期の時をどう迎えるか。人それぞれ考え方は異なる。
これは、終末期の患者がどういう医療を望むか、どのように家庭の中で過ごしたいのか、どんな風に最期の時を迎えたいのか、訪問医療を通し、患者と真っ正面から向き合い葛藤しつつ、患者本人と家族に寄り添い支え見送る京都の西加茂診療所の医師、看護師の思いを綴った本だ。この診療所は実在していた。
訪問医療というのは、決まった曜日・決まった時間に医師・看護師が家庭にやってきて必要な治療をして帰るだけと思っていた。しかし、西加茂診療所は、必要であればいつでも患者の所に駆け付ける。家族で行きたかった海に最後の思い出として行きたいと相談を受け、診療所のスタッフが海にも同行する。本当に寄り添っている。
今、介護施設はどこも人手不足の中でスタッフは懸命に働いている。
NHKの「お別れホスピス」も見ていて毎回涙が止まらないが、西加茂診療所のような施設や看護師や介護士がいるなんて奇跡のように思える。
ひと様から見ると我儘と思える患者の思いを叶えてあげる医師や看護師や介護士。訪れる死に対する恐怖をいかに和らげ終末を迎えさせるか。
また、介護している側の一人が末期癌になっていたことが分かる。今までの介護の経験が活きるかと思うとそうではなく、終末期を迎える一人の人間とした姿が描かれている。
私は、私の両親のように二人ともが意識の無い状態で1年以上も生き続けたような死を迎えたくない。私自身も癌を患って、今まで以上に死を身近に考えるようになった。しかし、自身の中で癌を受け入れる5段階なんていうのは無い。死ぬときはどうあがいても死ぬ。できる限り、家族に負担をかけないで最期を迎えられたら良いと思っている。私が居なくなった後、家族が幸せに暮らせれば良いと思っている。
家で最期を迎えるというのは、金銭面、身体面、精神面で家族に大変な負担を強いることになると思う。それが家族にとって後から大切な時間になるという考え方もあると思うが、それよりも私は、家族が自分自身の時間を大切にできるようにあって欲しい。
横着物の私には難しいことだが、一日一日を有意に過ごせるように生きていきたいと思った。













