Trex70’s blog

特別支援教育士として、障害児の教育相談を2000組近く行い、引退後は、毎年200冊以上の本を分野に関係なく暇に任せて読んでいます。Trexはティラノサウルス・レックスのこと。大好きな恐竜です。

いなくなった私へ/著:辻堂ゆめ

この小説は、いきなり一人の少女が、渋谷のゴミ捨て場で目を覚ますところから始まる。その少女は、国民的な人気シンガーソングライターの上条梨乃だった。

なぜこんなところにいたのか、自分でも不思議に思いながら歩いていると、素顔をさらしていても誰も彼女の正体に気づいてはくれなかった。さらに街頭に流れるニュースには、梨乃の自殺が報じられていて、自分でも呆然となった。

自分は生きている、誰が死んだの?、自分は何者?という?????が、頭の中を駆け巡った。いくら考えても自殺の動機が自分でも思い当たらず、また、その時の記憶が無かった。

そんな中、大学生の佐伯優斗だけが、なぜか梨乃の正体に気づいて声をかけてくれた。行く当てのない梨乃は、優斗の姉・なつみの家に泊めてもらうことになる。

梨乃は、田代実加と名乗り、自分が所属していた事務所でアルバイトを始めた。しかし、ここでも誰一人、実加が梨乃だとは気づくことはなかった。

梨乃が飛び降り自殺した現場に行ったとき、梨乃を梨乃だと認識できる小学生・立川樹と出会った。樹も家族から、”樹”として気づいてもらえず、家にも帰れず行く当てが無くなっていた。

樹は、梨乃の飛び降りた現場のすぐ近くを塾の帰りに通りかかり、事故の巻き添え?で、暴走してきた車に撥ねられて亡くなっていたのだ。

行く当てのない樹は、優斗のアパートで暮らすことになり、梨乃と優斗と樹の3人は出会うべくして出会ったのか、奇妙な絆で繋がることになった。

実加となった梨乃は、アルバイトにも少しずつ慣れ、また、優斗の大学のバンドに加わり明るさを取り戻してきていた。

しかし、梨乃は再び、死の恐怖を味わうことになった。梨乃が頼れる事務所の先輩と思っていた女性タレントは、本当は梨乃が嫌いで、カルト教の信者たちに梨乃を拉致させ、殺害しようとまでしていた。

優斗も蘇りだったのだ。カルト教の信者に殺されていた。梨乃や樹と同様に蘇っていた優斗は殺害される直前の記憶を取り戻し、梨乃の拉致された場所が同じところだと考え、警察に連絡し、梨乃は救われた。

「梨乃、優斗、樹」がなぜ蘇ることができたのか、また、なぜこの3人以外には本人たちを認識してもらえなかったのか?最後の最後になってやっと解るストーリーだった。

辻堂ゆめの処女作だそうだが、不思議さと面白さに溢れた良い作品と思った。

しかし、ここからはテーマにないことなので考える必要が無いのだけれど、梨乃と樹は無国籍状態のまま。この先、どうやって生きていくんだろうと思うと少し気が重くなった。