Trex70’s blog

特別支援教育士として、障害児の教育相談を2000組近く行い、引退後は、毎年200冊以上の本を分野に関係なく暇に任せて読んでいます。Trexはティラノサウルス・レックスのこと。大好きな恐竜です。

新教場/著:長岡弘樹

前作の「教場」シリーズは、読んでいて暗い、重たいと感じることが多かったが、この「新教場」では、重たいと感じさせるところは無かった。

指導官の風間公親は、”千枚通し”の異名を取る十崎(とざき)という犯罪者に狙われているため、本部長の意向で異動になった。

第一話 鋼のモデリング

風間公親は、警察学校第九十四期初任科短期課程の教官になった。男子二十八名、女子八名(計三十六名)の学生の個々人の課題(気になるところ)を見つけ改善し、半年間で一人前の警察官に育て送り出さなければならない。

助教の尾凪尊彦は、気になる生徒として、入学前に、支給された拳銃自殺を図った警官の救助し、警察に表彰されたことのある矢代桔平の名を挙げた。自殺を図った現場では、弾丸が1つ不明になっていた。

矢代は模擬交番勤務の最中に不明だった銃弾を使い拳銃自殺を図る。

風間から退校を促がされ、矢代は学校を去ることになる。しかし、自殺をしようとした矢代の心の葛藤がが余り描かれておらず、少し物足りない。

第二話 約束の指

マル暴刑事を希望している笠原敦紀は、警察学校の入学までの間、実家の町工場を手伝っていた時に、誤って小指をプレス機で切断してしまった。

入学後、ソフトボール部に入った。しかし、スローイングに難があったので、元高校球児の助教・尾凪から指導を受けていた。

訓練中の笠原の様子から、風間は笠原の小指の欠損を見抜く。しかし、小指の欠損を隠してまで訓練に耐え、マル暴刑事を目指す笠原は、警察にとって必要な人材と風間は自分の義眼を渡し、頑張れと無言で激励する。

笠原の必死さの描写が足りないように思えた。

第三話 殺意のデスマスク

ブラジリアン柔術の有段者の若槻栄斗は、交番実施研修中に通り魔を逮捕した。しかし、逮捕した時の若槻の報告書が正しく記入されていなかった。

若槻が聾者だと思い込んで職務質問ができなかった男は、通り魔として人を襲い掛かった。慌てた若槻は、ブラジリアン柔術で抑え込み捕まえようとする。その時、若槻は職務質問の段階で見破れなかった事実を隠そうとして、夢中で男の首を絞めていた。

風間は、若槻がパニックになると己を見失うという短所に気づき退校を促がした。

短所を克服させる努力を支援せずに、格闘家の道を目指させたのは綺麗ごと過ぎるように思えた。格闘家になるとしても、己を失うという欠点を自己コントロールできるようになっているほうが冷静な試合運びもできる。ここでも掘り下げが浅いと思えた。

第四話 隻眼の解剖医

校内の長距離走記録会で好成績を出すために女子学生の初沢紬は、食事制限と計画的な身体づくりのため日々努力していた。紬の妹から、隣の住人と揉めているとの相談を受け、助教の尾凪は紬と妹に護身術を教えた。

不快指数が高いと、犯罪が起きやすい。そんなときに、予てから予告のあった、司法解剖の見学という課外授業が入った。見学した生徒の大半と尾凪も嘔吐する中、紬は唯一人最後まで見学した。解剖した遺体は、紬の妹とトラブルを起こしていたアパートの隣人だった。尾凪が教えた護身術が不幸をもたらした。

事前に、この事実を知っていた紬に対して、風間は退校を促がした。

殺人か、事故かが、はっきりしない段階での退校勧告は、おかしいと思える。疑わしきは罰せず。

ネットで検索してみたが、凶悪な犯罪でない限りは採用されている都道府県の警察もあるという。指導もない、ただ退校では、掘り下げが足りない。

第五話 冥い追跡

星谷舞美は、性格が明るく、成績もトップクラスだった。大学で付き合っていた石黒亘は、星谷を追いかけて同じ警察学校に入校した。石黒は星谷を諦められずに、ストーカーをし続けていた。

卒配時に成績上位二名が最重要署に星谷と一緒に仮配属になる可能性があるので、石黒は成績を上げてきた。しかし、石黒のストーカー行為が我慢できず、星谷は虚偽の事件を起こす。

風間に見破られ、星谷は退校を促がされる。

ここでも、ストーカー行為に対する指導や、対策についてのアドバイスがない。

第六話 カリギュラの犠牲

カリギュラ効果」とは、禁止されるほどやってみたくなる心理現象のことをいう。

染谷将寿は、モデルガンの持ち込みを禁止されているにも関わらず、隠し持っていた。見つかると退校処分になる為、氏原清純は注意したが聞き入れなかった。

氏原はソリの合わない染谷と卒業式のスライド上映担当を任された。氏原は、拳銃実技研修の一場面をスライドに加えた。

卒業式当日、スライドを見て風間は祝辞の読み上げをやめ、最終講義を始める。

スライドには、染谷が氏原の背中越しに拳銃を突きつける姿がぼんやりと映っていた。

氏原は、私がやったと名乗り出て退校させられることになった。

氏原には、もともと大学院で社会学の研究をしたかったからという背景があった。

しかし、学校教育の観点から、染谷に対する指導が適切に行われなかったのはおかしい。

 

風間の警察官としての鋭さは描かれていると思うが、警察学校というところは適性に合わないと思うものはアドバイスも支援もせず、ただ放り出すというところというイメージをもたせると思う。・・・全体的には物足りない小説と感じた。