Trex70’s blog

特別支援教育士として、障害児の教育相談を2000組近く行い、引退後は、毎年200冊以上の本を分野に関係なく暇に任せて読んでいます。Trexはティラノサウルス・レックスのこと。大好きな恐竜です。

答えは市役所3階に 2020心の相談室/著:辻堂ゆめ

これは、立倉市の市役所の3階会議室で開設された「2020心の相談室」でのストーリーだ。心の相談室では、若いが経験豊富な臨床心理士の”晴川あかり”と、学校教員を退職後に大学に入り直して認定心理士の資格を取った”正木昭三”の二人でカウンセリングを行っていた。

<目次>

第一話 白戸ゆり(17)

高校3年の白戸ゆりは、ブライダル業界か、ホテル業界への就職を希望していた。しかし、コロナの流行で、学校に届いた希望する職種の求人は1件しかなかった。

ゆりよりも成績の良い親友の花菜も同じ職種を希望していたために、学校からの推薦は得られなかった。母子家庭で育ったゆりには経済的余裕がないため、大学への進学は難しく、就職の選択しかなかった。所属していた合唱部が目指していたNコンもコロナのために中止になり、合唱部の活動も自粛となり、早々の引退になっていた。

将来の夢を絶たれたゆりは、今以上の負担を母親にかけられず一人悶々と悩んでいた。

そんな時に、市役所の前で『2020こころの相談室』のチラシが目に入り、吸い寄せられるように相談に訪れた。

第二話 諸田真之介(29)

チラシの裏に『今までありがとう』のメモを残し、婚約者に去られた真之介が、心の中に鬱積した思いを聞いて欲しくて相談室を訪れた。

婚約者は、コロナの専用病棟がある市立病院で看護師を勤めていた。危険で、周囲からも感染の疑いの目で見られ、家族親戚からも嫌がられるため、仕事を辞めて欲しいと話し合いをしたら喧嘩になり、別れることになってしまった。

相談内容を読んでいると真之介の経済観念の薄さ(無さ?)とコロナで頑張っている人たちに偏見を持ち、思いやりも足りないので、婚約者に逃げられても仕方がないと思えた。しかし、相談終了後の二人のカウンセラーの~ 退庁前のひととき ~ で、「えぇ」って、目から鱗が落ちるというのか、まるで真相が違っていたことが分かった。

私は、こんなに深く深層心理が読めるカウンセラーではなかったと反省し、また、ぽろりと涙してしまった。

第三話 秋吉三千穂(38)

30歳を過ぎて理想の男性・健司と巡り合った三千穂は、入籍前に妊娠したためにファミリーウェデイングを考えていた。大手コンサルティングファームに勤める健司は、激務で会社の近くのホテルから出勤したりと家に帰ってくることが少なかった。また、出産のために入院した病院も、コロナの感染予防で退院まで面会謝絶になり、健司と会うことができなくなった。退院後も健司は帰って来ず、役所の手続きも子育ても三千穂が一人で行った。ワンオペで産後鬱になり、生まれた子どもを危うく殺しそうになり、心の相談室を訪れた。

相談終了後の二人のカウンセラーの~ ひととき ~で驚かされた。

第四話 大河原昇(46)

高校卒業時に正社員になれなかった大河原は、フリーターをし喧嘩で首になった後、日雇いの建設現場の仕事をしていた。コロナで日雇いの仕事も少なくなり、ネットカフェも利用できなくなった。公園のベンチで寝泊まりを繰り返していたところを7人の酔っ払いの若者に襲われた。そんな大河原が相談室を訪れた。

その後も公園で寝泊まりを続けていたが、大河原から見ても不審人物に思える若い男性が、ブツブツ言いながら公園の中へ入ってきた。この男性を件の7人組が襲った。

若者を助けた大河原は、考えを改めてその日暮らしを止め、寮のある建設会社に就職した。

第五話 岩西創(19)

コロナでオンライン授業になり、外出する機会が減っていた創に、「三時に心の相談室に行くように」というフリーメールが届いた。心当たりのない創は、相談室に電話をした。相談をするつもりが無かった創だったが、そのまま日常の不安をカウンセラーに話した。創は浪人生で、受験勉強で暗記のために夜中、公園を利用していた。創に謎のフリーメールを送っていたのは、妹のゆり(第一話の白戸ゆり)だった。両親が離婚し、創は父親と暮らし、ゆりは母親と二人で暮らしていた。

創の近況を知らないゆりは、兄が引き篭もっていると勘違いし、無断で相談室に相談の申し込みメールを送っていた。

 

相談室のアドバイスが役に立ったという話ではないが、相談をきっかけにクライエントが自己解決していくという、カウンセリングの目指すところが書かれている。

相談終了後の『~ ひととき ~』は、クライエントの表面の言葉だけでなく、より深く心理状態を推察することの大切さや、カウンセラー自身が広い知識や視野を持って傾聴することの大切さに改めて気づかせてくれた。