中国武漢でコロナウイルスが発症し世界中に蔓延しだしたのが2019年。それよりも3年も早く、まるで予見したかのような小説が2016年(平成28年)に出版されていた。
中央アフリカ、タンザニアにある古代遺跡の調査をしていた世界的考古学者のウイリアム・テラーが帰国後、発熱と呼吸困難を訴えて入院。テラーはそのまま亡くなり、主治医だったドナルド・ミュラー医師も感染し、敗血症で命を落とす。
ミュラーは、WHOに『未知のウイルス感染による急速進行性免疫不全症候群』として同疾患を報告し、その後、患者の血液中から原因ウイルスを特定し、ドナルド・ミュラーウイルスと名付けられる。このウイルスによって引き起こされる疾患は、ドナルド・ミュラー症候群(DoMS)と呼称された。
DoMSは、飛沫、接触、性交渉、血液などの経路で感染するが感染力は比較的弱い。それでも、ワクチンが開発されるまでは、新興国ではほぼ致死率は100%近かった。
数週間の急性期を乗り越えた患者は、病状が回復する変異期に入り、ヴァリアント(変異体)となる。ホルモンの変化により、虹彩が白銀色に変化するとともに、通常の人類を遥かに凌駕する運動能力と(聴覚・嗅覚などの)感覚能力を獲得するが、同時に紫外線に対して強いアレルギー症状を起こすようになる。
ヴァリアントになった未成年の男性(鈴木比呂士)が起こした「女子高生への強盗強姦致傷、及び。警官への傷害致死事件」(銀の雨事件)が日本中を震撼させた。そのため、ヴァリアントは狂暴で危険なモンスターとされて、長野の山奥にある『憩いの森』に全員隔離される。
ヴァリアントであることを隠して、深夜の救急医療室で働く岬純也のもとに、白銀の瞳を持つ美少女・小林悠が現れ、匿うことになる。悠は、事件を起こし東京拘置所に収監されている兄・比呂士を脱走させるために、隔離施設「憩いの森」から脱走していた。
純也は、兄に手紙を渡したいと言う悠と拘置所に出かけ、結果的に脱獄の手助けをすることになってしまう。
比呂士は、政権奪取のために、自分を凶悪犯に仕立て上げ、ヴァリアントを隔離施設に閉じ込めた政府と首相を糾弾し、隔離政策の解除と差別の是正を訴えるために仲間を集めていた。
ヴァリアントに異常な憎悪を抱く公安刑事・毛利の追跡が迫る中、憩いの森を抜け出したヴァリアントたちと比呂士は、マスメディアが主催する党首会談を襲った。
ヴァリアントであることを隠し、ひっそりと生きていた純也が好むと好まざるにもかかわらず事件に巻き込まれ、党首会談を中継するテレビにも出てしまう。330ページ足らずの本だったが、次々と場面展開していき、あっという間に読み終えてしまった。