Trex70’s blog

特別支援教育士として、障害児の教育相談を2000組近く行い、引退後は、毎年200冊以上の本を分野に関係なく暇に任せて読んでいます。Trexはティラノサウルス・レックスのこと。大好きな恐竜です。

名探偵のままでいて/著:小西マサテル

最後まで読めば分かるが、タイトルの「名探偵のままでいて」は主人公の祖父に対しての想いを表している。6編に分かれた推理小説だ。

主人公は、小学校に勤める楓。一人でマンションに住んでいる楓には、レビー小体型認知症(DBL)に罹っている祖父がいる。祖父は、小学校の校長を勤めた人物で頭も良く、碑文谷に一人で住む自宅には推理小説など多くの本を愛読していた。

DBLは、アルツハイマー認知症に次いで2番目に多い認知症で、血管性認知症とともに「三大認知症」と言われている。 レビー小体という異常な蛋白を大脳皮質に広く認め、レビー小体が現れる原因は脳の年齢的な変化と考えられている。脳の神経細胞が徐々に減っていき、特に記憶に関連した側頭葉と情報処理をする後頭葉が萎縮するため幻視が出やすいと考えられている。

幻視や認知機能の変動と並び、初期のうちからパーキンソン症状がよくみられる。手足が震える、動きが遅くなる、表情が乏しくなる、ボソボソと話す、筋肉・関節が硬くなる、姿勢が悪くなる、歩きづらくなる、転倒しやすくなるなど、身体にさまざな症状が生じる。しかし、患者自身には病気であるという認識がほとんど無い。また、他の認知症と比べて進行が速いという特徴もある。

この物語は、祖父の影響で推理小説好きになった楓が、DBLの祖父に、祖父も馴染みだった居酒屋で起こった殺人事件や、小学校で起こった2つの事件、先輩教師が巻き込まれた傷害事件の相談をする。

幻視で青い虎や香苗(亡くなった楓の母親)が見えているときもあるが、しっかりしているときの祖父は、楓の話から次々と推理し、物語(事件)を紐解いていく。

最初の4編までは大して面白くもない推理小説だと思ったが、5編目の先輩教師が巻き込まれた殺人事件の「まぼろしの女」から、俄然推理小説らしくなってきて、物語に引っ張り込まれた。また、6編目(終章)のストーカーの謎では、楓の母が結婚式の当日にストーカー殺人で亡くなっていたこと。身ごもっていた香苗から楓は奇跡的に生まれたこと。その楓がストーカーに襲われ、祖父まで巻き込んだ物語(大事件)になったこと。ストーリー展開が面白く、『このミステリーがすごい!』大賞を受賞したのが納得できた。

面白いと思って、小西さんの他の小説を探したが見当たらなかった。放送作家で、小説を本格的に書いている人でなかったことにまた驚いた。2作目が出たら読んでみたい。

<目次>

第一章 緋色の脳細胞

第二章 居酒屋の"密室”

第三章 プールの”人間消湿“

第四章 33人いる!

第五章 まぼろしの女

終章  ストーカーの謎