「松雪先生は空を飛んだ」という題名と自転車に乗って浮き上がっているような表紙のイラストから、飛行機制作の話か、空飛ぶ自動車でも発明する話かなと思って読んでみたが、そうではなかった。
松雪先生と奥さんの晴子さんが運営する学習塾で、先生から選ばれた7人と付いてきた1人の子どもが松雪先生の血を飲む。そのときに最終講話として「空を飛べるようになるが、その代わりに出世や栄達はできない」ことを教えられる。また、「だれにも言わない」「飛んでいるところを人に見られないように」「血を人に分けてはいけない」ことも言われた。その後、松雪夫妻は忽然と消えてしまう。
8人の内うちの1人、高岡泰成だけが、偉くなりたいという夢を持っていたために飲んだふりをしてハンカチに血を捨てていた。
血を飲んだ7人は空を飛べるようになっていた。体力も人並み以上、寿命も普通の人間の倍、空を飛んでいる間はどんなに速く飛んでも呼吸が苦しくなることもない。空を飛ぶ力で人助けをすることもあり、そのたびに突然誰にも告げずに消えてしまう。正体が分からないようにするために、結婚も出来ず、一か所に定住できずに暮らしていた。
上巻は6話構成、下巻は8話構成になっている。
第一話で、上巻・下巻通じてキーになる銚子太郎が登場する。就職先のスーパーでの失敗を助けてくれたパートの久世と出会う。久世は血を飲んだ7人のうちの一人だった。
血を飲んだ7人のその後と血を飲まずにスーパーチェーンの会長になった泰成と松岡夫妻のことが順々に描かれている。
下巻の最終話で再び8人が集まり、自転車ではなく、新たに飛行人間になった太郎・果林・桜子・凪子の4人と松雪夫妻を併せた14人が乗ったバスで空を飛ぶ。
<目次>
上巻
第一話 銚子太郎
第二話 糸杉綾音
第三話 常見得次郎
第四話 高岡純成
第五話 甲田果林
第六話 堀田政子
下巻
第七話 大神松之
第八話 果林と太郎
第九話 銚子寛道
第十話 串原新司
第十一話 松波勘太郎
第十二話 山下桜子
第十三話 晴子
第十四話 泰成と龍平
旧ハンガリー領のペンシルバニアで、昔、飛行できる一族がいた。松雪夫妻はなぜ空を飛べるのか、妻の晴子はハンガリー人だった。
他人より長生きして、丈夫で、空を飛べることって、本当に素晴らしいことなのかなあって私は思う。スーパーマンもたまには良いけど、いつもだったら却って気が休まらないんじゃないのかと考えてしまう。ないものから見た、やっかみかな。