「帝通プランニング」の企画部に勤務する野崎修作が主人公。
月曜の早朝定例会議に間に合うように家を出た野崎が駅に着くと、いつも乗る上りの電車が遅れていた。反対側に停車していた車両が空いていたので思わず座りこんでしまう。電車は下りだったが、会議に出るのも憂鬱で休憩のつもりで座っていたら発車してしまった。乗った電車は急行で、どうしようか迷っているうちに「ろくでもない毎日からの脱出」と会社をサボることを決めた。野崎が終着駅に着くと改札の前に、どでんとふたこぶの山が迫っていた。あの山に登ろうとふと思ってしまう。
その前に一先ず腹ごしらえと思い、コカ・コーラの古い看板が掲げられている木造の商店に立ち寄りパンとビールを買う。この商店が異世界の窓口だった。
車も来ない、人もいない、マスクを外し、あれこれ思い巡らせながら歩きだす。
そのまま、野崎はワンダーランドに入り込み、「日常」に戻れなくなってしまう。
日が暮れかけたので慌てて山を下り、自宅のある駅まで戻ってみると、そこは似ているが何かが違う。妻・美冬の様子もどこかおかしい。朝、駅に向かうとマスクをしている人がいない。電車の中では、「おい、マスクしているぞ、あいつ」とひそひそ声が聞こえてくる。なんとか会社に辿り着くとオフィスビルの一画を借りていた勤務先の「帝通プランニング」は自社ビル変わっていた。同僚は変わっていなったがが、何かが違う。
世界中で狂牛病が蔓延し牛がほぼ全滅していた。ドサクサに紛れたように大神光教という宗教が世界中に拡がり、妻・美冬は巫女として注目されていた。
美冬であって、美冬でない。自分がおかしいのか、周りがおかしいのか。
一体どうなっているのかと悩んでいるうちに異世界に飛び込んでしまったことに気が付いた。
元の世界に戻ろうと、また、通勤電車と反対方向の下りに乗り込んでみた。しかし、そこには、独身の頃に付き合っていた高瀬奈緒という女性が妻になっていて、2人の子どももいた。
この世界では、後輩の多田が専務になっていて、また、相互監視社会に似てうっかりとした発言はどこに居ても、禁句だった。
次の世界では銃で追いかけられ、そこからも脱出する。
自分の居た世界を見つけたと思って、我が家に帰り着いたら、妻は美冬に戻っていたが
何か違う。
あまり仕事の出来そうにない野崎がいるかと思えば、別の世界ではできる男と思われた。同じことをしても、環境が変われば評価が変わる。
決まり切った日常から、逃げ出してみたいと真面目な人間ほど思うのだろう。
私はカウンセリングの仕事をするようになって、自分の中に溜め込まないことを学習した。しかし、溜め込まないで生きていくことは本当に難しい。
不思議なストーリーだった。
<目次>
Ⅰ.異世界扉はどこにあったのか?
Ⅱ.似ているがここは私の世界じゃない
Ⅲ.どうすればもの世界へ戻れるだろうか
Ⅳ.私は私の世界へ帰るのだ
Ⅴ.異世界は今日も雨だった
Ⅵ.そしてまた旅が始まる