病のために死去したラザロが、布教から帰ってきたキリストによって墓の前で呼びかけられると復活したという「ラザロの復活」という話が、ヨハネの福音書にあるそうです。その後、蘇ったラザロがどうなったのかは分からないらしい。私は、キリスト者ではないので、この福音書の伝えたい意味が分からない。キリスト自身も蘇りをしたそうだが、何のためにラザロを蘇らせたのか意味が分からない
しかし、小説の最後でどんでん返し的に死んだ人間が密かに蘇り、別人として生きるという結末になっているところがテーマの中に含まれているんだろうか。
約480ページで量としてはそれほど多い枚数ではないのだが、前半の四分の3位が嫌気がさすほどダラダラと長い。ところが、後半で急に目覚めたかのように話が急展開する。それも、最後の最後になってどんでん返しが待っている。途中で放り出さなくって良かったと思った。
同居人のミオが行方不明になっているとナミが警察署に捜索依頼に現れた。そこに1つめの事件が持ち込まれる。
この後、2つのストーリーが関係ないかのように並行して走り続ける。
1つめは、元の色が分からなくなるほど大量の血で染まったシャツとコートを羽織った青年が、血の付いたナイフを持って警察署に現れたことから事件が始まる。しかし、本当に事件なのか。殺されたのは誰なのか。遺体がどこにあるのか分からない。
警察署に現れた青年は、精神科医で警察に勤務する久賀警部によって、解離性同一性障害(多重人格)と判明した。出生時、幼少期、少年時、に受けた様々な肉体的苦痛や精神的苦痛によって、一人の人間の中に何人もの人格が生まれ、その内のひとつの人格が殺人事件を起こしていた。
2つめは、南仏のプロヴァンス風のペンションで開かれた「謎解きイベント」で3件の殺人事件が発生する。芥川龍之介の「藪の中」という藪の中で起こった殺人事件をなぞったような話だ。ミステリー作家の月島理生と友人の永門学と、新城亮貴、愛華、亜人夢、アッシュ、夏野、辻村玲が参加した。
ペンションで起こる殺人事件を解決するというイベントで、事件が解決するまでは、ペンションからの脱出は不可能になっていた。
まず、ペンションの管理人夫妻が殺され、次に夏野、その次に玲が殺された。生き残った新城、愛華、亜人夢、アッシュから、月島が犯人だと追及が始まった。
新城も亜人夢もアッシュも殺され、最後に愛華が犯人と分かるのだが、月島も愛華も、他の参加者たちも一人の人間の中で生まれた人格だった。
1つめと2つめの事件は、一つに繋がる。1つめの事件で殺されていたのは玲。2つめの事件でも登場する。警察署に現れた青年が玲を殺した犯人と判明する。
しかし、殺されたのは玲ではなく、ナミというどんでん返しが最後に用意されていた。
いままでの神永さんの作風とはちょっと変わっていて、退屈であり、また楽しくも読めた。