Trex70’s blog

特別支援教育士として、障害児の教育相談を2000組近く行い、引退後は、毎年200冊以上の本を分野に関係なく暇に任せて読んでいます。Trexはティラノサウルス・レックスのこと。大好きな恐竜です。

八月の銀の雪/著:伊予原新

人の感情の移ろいについて表現しようとした小説だと思った。

〇八月の銀の雪

コンビニでは働くベトナム人・グエンと理系大学生・堀川の話。

堀川は、グエンの事を不愛想で手際も悪くどうしようもないと思っていたが、ある切っ掛けで、大学院博士課程で理学部の地震研究所で学ぶ女性ということが分かった。

堀川は、就活をしていたが全敗で、自信を失いかけていた。

地球の内核には鉄の雪が降っているというグエンとの出会いで、堀川が前向きに変わっていく。

〇海へ還る日

妻へも子どもへも関心のない夫と別れて、一人で果穂を育てている女性がいた。女性は母親に捨てられたも同然に祖母に育てられた。母親もシングルマザーで、子どもへ愛情を注ぐことは無かった。

そのため、自分自身も子育てに自信が持てずにいた。

ベビーカーに娘を乗せて電車に乗ったが、白い目で周囲から見られ動揺しているところに高齢の女性・宮下と出会った。女性は博物館に委託で勤務し、長年クジラの絵を描いていた。宮下と親しくなっていく中で、女性は自分の生き方に明かりが灯ったように感じていく。

〇アルノー檸檬

夢破れて派遣社員として不動産会社の仕事をする正樹。

担当するアパートの大家の家族が、アパートを壊してマンションに建て替えを希望したために、住民の追い出しを上司から命じられた。そこで、迷い込んだ伝書鳩を飼う女性と出会った。伝書鳩の引き受け手を見つけてくれたら立ち退きに応じると言われ、鳩の脚環を手掛かりに聞き込みを行った。

〇玻璃を拾う

京都の珪藻アートを作る男性と恋人を友人に取られ昇進の女性の出逢い。

〇十万年の西風

原発の下請け会社を辞め、一人旅をしていた辰郎は、海岸で凧あげをする男性と出会った。男性の父親は太平洋戦争(第二次世界大戦)で、気球爆弾を研究していた。

偏西風を利用し、気球に付けた爆弾をアメリカまで飛ばすことを日本軍は考えていた。

爆弾ではなく細菌兵器を気球に積んでアメリカまで飛ばしていたら、どうなっていただろうか。第二次大戦は日本にとって泥沼の戦いだったが、もっと悲惨なものになっていたかもしれないので実行されなくてよかったと思った。

 

作者は人との出逢いが人生を深みのあるものに変えるということを伝えたかったのだと思った。地球の話、派遣社員の話、クジラの話、偏西風の話、もっと掘り下げて欲しかった。