Trex70’s blog

特別支援教育士として、障害児の教育相談を2000組近く行い、引退後は、毎年200冊以上の本を分野に関係なく暇に任せて読んでいます。Trexはティラノサウルス・レックスのこと。大好きな恐竜です。

覇王の轍/著:相場英雄

殺人を含めた犯罪も、時の政権や権力者にとって都合が悪い場合、無かったことにされる。つまり揉み消されるということがあると、様々な小説の中で書かれているが実際はどうなんだろう。有ってはならないことだと思う。しかし、つい最近も公文書を黒塗りにし、無かったこととして平然と言い逃れるということが実際にあったように思う。

この小説は後半で、警察と検察がタッグを組み心血を傾けて取り組んだ成果が、時の政権の思惑でなし崩しにされるという展開になる。「やっぱりそうか」長いものに巻かれるのを良しとする結末かと、ガッカリしかけたが、そのまだ先があり、悪は悪、悪は裁かれるものと期待させる終わり方になっていた。

樫山順子は、東大を卒業後に国家公務員一種、いわゆるキャリア官僚として警察庁に勤務し、急な異動で北海道警察本部捜査二課長として着任することになった。

北海道には、道内のほとんどの区間が営業赤字を抱えるJE北が走っている。政府が巨費を投じた北海道新幹線も乗車率が惨憺たる状況で収益化が見込めず、また、自然災害で使えなくなった線路や橋を補修せず放置し、事実上の廃線にしていた。

着任早々、道警二課が警視庁二課と合同で捜査していた事件に取り組むことになり、樫山は警視庁二課の小堀理事官と連携を取りながら捜査にあたった。道立病院を舞台とした贈収賄で、収賄側が病院局の課長補佐栗田聡子、贈賄側は民間の医療関連会社3社だった。

収賄事件で収賄側を立件する際、検察が起訴するかどうかの分水嶺は、不当に受け取った金額が給与の三カ月分とされるという基準があるらしい(ネットで検索してもこの基準は見つからなかった。)が、今回は2500万円にのぼった。歌舞伎町のホストクラブなどでの遊興費や交通費や宿泊費などにつぎ込まれたとの見立てだった。

収賄側を道警が、贈賄側を警視庁が、同時逮捕することで自白を促がし、立件起訴する計画で進めていた。

栗田は地味な女性で、なぜホストに2500万円もつぎ込んだのか、動機も不明だった。また、収賄側の栗田に渡った金額に1000万円の齟齬が見つかった。

樫山が着任前に転落事故として処理されていた、JEや大手私鉄の技術面を監督する国交省の専門官の稲垣達郎は事故ではなく殺人事件であり、また、業務中に心筋梗塞で亡くなった北装電設の倉田は現場での重機の捜査ミスによる事故であったことが確認された。

この2件の事件と事故の裏には、北海道新幹線延伸工事に絡んだJE北と鉄道建設機構と道警の隠蔽工作があった。

倉田は、身寄りのない子や家庭に恵まれない地域の困窮する子どもたちを救おうとボランティアでサッカークラブを運営していた。栗田は、稲垣とも倉田ともかなり以前からの顔見知りで、倉田の死をきっかけに栗田が贈収賄事件を起こしていたことが分かった。栗田は倉田の遺志を継ぎサッカークラブ存続を図るため、収賄で資金を得ることを考えた。

収賄と殺人事件と事故が繋がり、道警と警視庁、検察庁と地検が動き出したところに雲の上からストップがかかり、捜査の中心になっていた樫山と小堀に懲戒処分か閑職への左遷かの二択が突きつけられた。

 

50年近く前に日本列島改造論を唱え、日本全国に鉄道網を敷くという計画をぶち上げた人間ブルドーザーと言われた宰相の田中角栄「覇王」がいた。当時と異なり、民営化されたJRは、北海道や九州で新幹線を走らせても黒字化する見込みが立たなくなっている。しかし、一度決めた計画を簡単には変更できないこの国は、過去の「轍」を今も歩み続けている。

実在しない人間によるドラマとして描かれてはいるが、タイトルはここから採られていると思った。