Trex70’s blog

特別支援教育士として、障害児の教育相談を2000組近く行い、引退後は、毎年200冊以上の本を分野に関係なく暇に任せて読んでいます。Trexはティラノサウルス・レックスのこと。大好きな恐竜です。

エンジェルフライト 国際霊柩送還士/著者:佐々涼子

第10回開高健ノンフィクション賞受、賞作。

DVDで、米倉涼子が主演する「エンジェルフライト」を見て凄い話だと思い、もしかしてこれは原作があるのではと探し、この本を探して見つけることができた。

ENGEL FREIGHTは、「天使が運ぶように優しく運ぶ」という意味。フレイトではなく、敢えてフライトと読むことで、エンジェルフライトが表題になっている。

毎年5~600人ほどの日本人が、病気や事故、殺人、テロで、海外で亡くなっている。

エアハース・インターナショナル株式会社は、亡くなった方々のご遺体や遺骨を日本に送り届けたり、日本で亡くなった外国人のご遺体を本国へお送りする仕事「国際霊柩送還」を行っている。毎年200体以上のご遺体を運んでいる。

実際に存在するエアハース社は日本初の専門会社で、著者の佐々は取材とインタビューを丹念に重ねて書き上げた。遺体や遺骨は法令上貨物扱いで運ぶため羽田空港国際線貨物ターミナルのビルに事務所がある。

従業員は、髭にオールバックの会長・山科昌美、共同経営者の社長・木村利惠、利惠の息子の利幸と娘の桃、ドライバーの古箭厚志、新人の川﨑慎太郎の6名と最近採用された数名という家族経営的な会社だ。

ただ運んでいるだけでなく、エンバーミング(防腐処理)を施したり、事故や事件で損壊されたご遺体を何時間もかけて生前のような姿に修復し、ご遺族のところまでお届けしていた。また、海外からの搬送や受け入れに必要な手続きやご遺族の現地の整理の支援など、ただの葬儀社ではできない専門性が要求される仕事をしている。

「国際霊柩送還」は、ご遺族がきちんと亡くなった人に向き合って存分に泣くことができるように、最後にたった一度の「さよなら」を言うための機会を用意する。

「いっぱい泣いていいよ」「好きなだけ別れを惜しんでいいよ」と国境を越えて亡くなった人に対し、ご遺族が悲しみつくすことに力を貸している。エアハースの面々は体を張って、その時間とスペースを作っていると著者の佐々が書いている。

本中で紹介される、アルフォンス・デーケン博士の著書『死とどう向き合うか』の12段階の遺族の悲嘆のプロセス①精神的打撃と麻痺状態 ②否認 ③パニック ④怒りと不当感 ⑤敵意とルサンチンマン(うらみ) ⑥罪悪感 ⑦空想形成、幻想 ⑧孤独感と抑うつ ⑨精神的混乱とアパシー(無関心) ⑩あきらめー受容 ⑪新しい希望ーユーモアと笑いの再発見 ⑫立ち直りの段階ー新しいアイデンティティの誕生

「死」だけでなく、明日のためにどう立ち向かうかという点で、親が我が子の障害を受け入れるときのプロセスとほぼ同じに思える。

エアハースの人たちを(自分たちは思っていないかも分からないが)CALLING=天職=本当に自分に向いた仕事には「呼ばれる」と佐々が表現しているが、まさにその通りと思った。

佐々と木村利惠と利幸から、人を弔うことの意味と「死」というものをどうとらえるかを考えさせてくれた。

 

<目次>

〇遺体ビジネス

〇取材の端緒

〇死を扱う会社

〇遺族

〇新入社員

〇「国際霊柩送還」とはなにか

〇創業者

〇ドライバー

〇取材者

〇二代目

〇母

〇親父

〇忘れ去られるべき人

〇おわりに

エアハースのような会社があることを知らなかったし、読んでいて何度も涙が出て、本当に尊い仕事をされていると感動した。