700万部のベストセラー「ビブリア古書堂の事件手帖」の三上延の最新作。
何か変な話だなと思いながら読み進めていくと「怪談話」だった。
表題の「百鬼園事件帖」の「百鬼園」は、実在の小説家・内田百閒(本名:榮造)の「百鬼園随筆」から引用している? 百閒は、昭和初期の随筆ブームの先駆けになった人物らしい。この随筆では、百閒の師の夏目漱石の思い出から自身の借金問題まで書かれているようだが、「百鬼園事件帖」の中でも同様に綴られている。
主役は、内田百閒と百閒が私大で教えるドイツ語の授業の学生・甘木と「ドッペルゲンガー」。
「ドッペルゲンガー」とは、もう一人の自分、自分とそっくりな分身のような存在に出会う現象。古くから神話・伝説・迷信などで語られ、肉体から霊魂が分離・実体化したものとされ、この「二重身」の出現は、その人物の「死の前兆」と信じられた。
この小説の中では、ドッペルゲンガーはどこから現れるのか、幽霊なのか化け物なのか、あるいは、地獄の使者なのか、は少しも語られていない。
舞台は、関東大震災(1923年)の8年後の昭和5年の神楽坂。甘木は一緒に居ても存在を認識されないほど影が薄い。
甘木の友人・青池から借りた上着が行きつけの不純喫茶・千鳥で、自身の通う大学の偏屈教授内田榮造(百閒)の上着と取り違えられた。
百閒の上着は、師の夏目漱石からの形見分けされたものだった。この取り違えを契機に百閒と甘木は親しくなる。百閒は、芥川龍之介とも交流があったらしい。
百閒と行動を共にするうちに、芥川や百閒のドッペルゲンガーが現れ、甘木は怪現象に巻き込まれるようになる。
<目次>
第一話 背広
第二話 猫
第三話 竹杖
第四話 春の日
不思議な小説だった。