Trex70’s blog

特別支援教育士として、障害児の教育相談を2000組近く行い、引退後は、毎年200冊以上の本を分野に関係なく暇に任せて読んでいます。Trexはティラノサウルス・レックスのこと。大好きな恐竜です。

あきない世傳 金と銀⑫ 出帆篇/著:高田郁

女店主・幸を主人公にした物語の12作目。

支配人の佐助以下8人の奉公人が、店主の幸を支え、一丸となって、「売りたいものを扱うのではなく、お客が買いたいものを売る。売り手も買い手も幸せにする商い。」を目指す。近江商人の「三方よし」と同じ思いで、五鈴屋の店主・奉公人だけでなく型彫師、型付師が知恵を出し合う物語。私は、会社のために全力を尽くすなんてことはできないし、する気も起らない。物語とは言え、素晴らしい、毎回感動を覚える。

 

五鈴屋が浅草太物仲間に無償で提供した浴衣地の型付の手法で、仲間の全店が一つにまとまり、売り上げを伸ばし、浅草太物仲間で扱う浴衣を江戸中に知らしめることができた。

太物仲間は、五鈴屋に対するお礼の意味と仲間が呉服も手掛けることで、さらに安定した商いができるようにと、おかみの許しを願い出た。それに対して、奉行所から冥加金1600両を申し付けられ、太物仲間は頭を抱えた。五鈴屋は、3年の分割で幕府に収めていた上納金1500両の返金を放棄し冥加金と相殺してもらうことで、仲間の負担を軽減させ、呉服を扱えることができた。

浅草呉服太物仲間として、仲間全員の協力で五鈴屋が作成した「家内安全」の小紋染めと呉服切手を売り出した。「家内安全」の小紋は江戸庶民に受け、また、呉服切手も贈答などに使え町人だけでなく、武家などにも受け入れられることになった。呉服切手は、幸が大坂で流通している饅頭切手からヒントを得て考え付いたものだった。

呉服を販売することで武家の客が増え、売値の高いものを扱うようになって、どんなに繁盛しても、五鈴屋主従の真心のこもった客への態度と応対は変わらなかった。

しかし、幸の思いには、五鈴屋はどうあるべきかの痞えがあり、悩み続けていた。そこに、吉原の大見世の大文字屋市兵衛から、大店が集まる「大掛かりな衣裳競べ」への参加を促された。それは、呉服商同士を競わせて勝敗を決め、勝った呉服商が以後、見世の装束を任されるという仕組みだった。

吉原の見世で五鈴屋が任されるようになるのかどうか、多くの人に支えられたきた幸の行く末・・・・次回作を楽しみに待ちたい。