Trex70’s blog

特別支援教育士として、障害児の教育相談を2000組近く行い、引退後は、毎年200冊以上の本を分野に関係なく暇に任せて読んでいます。Trexはティラノサウルス・レックスのこと。大好きな恐竜です。

奈良監獄から脱獄せよ/著:和泉桂

大正時代に無実の罪で監獄に収監された男たちの脱獄に至るまでの物語だった。

数学教師の弓削朋久が赴任した橘樹高等女学校は、良妻賢母を育てることを目標にし、校則も厳しく、友達同士で活動写真やカフェにも立ち寄ることが禁じられていた。そのためか、結婚までの腰掛のつもりの名家の女子がほとんどだった。

弓削は数学の授業以外は生徒と関わることなく、生徒や保護者と何の問題も起こさずに淡々と教職生活を送ろうと考えていた。

校庭の片隅に植わっている木に巣を作っていた小鳥たちを毎日見上げながら観察していると一人の女子生徒・小笠原寧子が弓削の様子を見て、同じように観察するようになった。そんな寧子に親が決めた許嫁との結婚を早めるため、女学校を辞めるようにと父親から話があった。まだ、女学校を辞めたくない寧子は弓削に相談しようとしたが、弓削は生徒と関わりを持ちたくないため相手にしなかった。

寧子は、相談することもできず一人悩み小鳥の観察をしていた木で首を吊っってしまった。寧子の父親は地方の名士だっため外聞を憚り、自殺ではなく殺人事件として警察や司法を動かし、遺書に名前のあった弓削を殺人犯に仕立て、無実の罪で奈良監獄に懲役20年の刑で収監した。警察や司法も加担しているため、再審請求も通らなかった。

家族からも早く犯した罪を認めて、遺族に謝罪をするようにとの手紙を受け取り、誰も信じることができなくなっていた。

弓削は刑務所の中でも、他の囚人と関わりを持たないようにしていた。しかし、組紐の作業をしていると羽嶋亮吾の指導係を命じられた。

羽嶋は、雇い主の社長を殺し工場に火をつけ、放火殺人の罪で無期懲役刑として収監されていた。しかし、社長の娘婿の犯行で、羽嶋も弓削と同じく、無罪だった。

弓削は典獄(監獄の所長)から、日曜日に若い囚人たちに数学を教えるように命じられる。他の囚人との関わりを持ちたくなかった弓削だが、典獄の命令なので従うしかなかった。しかし、元々教えることが好きだったため、囚人たちにもプラス効果が表れ、弓削が収監されている班にも好影響として現れてきた。そのため、典獄は弓削をますます利用しようと目論んだが、弓削は反対に典獄に気づかれないようにしながら、典獄を利用することを考え、誰も成功したことの無い奈良監獄から脱獄を密かに計画した。

嵐の日に計画は実行され、羽嶋と一緒に弓削は脱獄に成功する。

脱獄後、二人は開拓団に紛れて北海道に渡った。

 

脱獄までは長々と頁数を使っているが、脱獄から北海道に渡るまで、開拓団としての北海道での暮らしがほとんど端折られていて、作者も息切れがしたのかと思わせる。

残念な終わり方だった。