これは、(僕の記憶では)冲方氏が今までに書いていなかったバーチャル空間の世界を扱った小説だった。
主人公は、朝倉暢光と息子の凛一郎。
裕福な家庭で育った暢光は暢気ですぐに人を信用してしまい、また、汗水たらして働くことを避け、楽してお金を稼ぐ夢のような儲け話に飛びつき何度も騙された。そのため貿易商だった親から相続した数(十)億円の財産のほとんどを失っていた。
看護師をしている妻・亜夕美からも愛想尽かしをされ離婚になっていた。中2の息子も小3の娘も元妻が引き取ったため、オンラインで会うばかりだった。
息子・凛一郎が交通事故に遭い、意識不明状態になり、暢光は悲しみに暮れ、何もできない自分に落ち込んでいた。そこに、意識不明のはずの息子・凛一郎から、オンライン内でメッセージを受け取った。
最初は息子を騙った詐欺ではないかと疑った。しかし、肉体は眠ったままだが、精神はゲームの中にあることが分かった。昏睡状態の凛一郎は、オンラインゲームの中でだけコミュニケーションをとることができ、暢光や家族とも話すことができた。
暢光は凛一郎を覚醒させるため、元妻・亜夕美、娘・アーちゃん、義母・芙美子、父の代からの弁護士・武藤、凛一郎を車ではねた善仁とその彼女の美香、暢光を詐欺にかけた裕介、主治医、凛一郎の親友を説得しチームを組んで、eスポーツの世界大会を出場を目指した。
世界大会に進むためにはポイントを稼がないといけない。チームでゲームへの参加を重ねるうちに前回の世界大会チャンピオンのマシューの協力を得ることができた。
おかげで、暢光と凛一郎のチームは、世界大会に出場することができた。
息子を車ではねた善仁と美香を許し仲間として受け入れ、また、自分を騙した詐欺師の裕介も許し仲間に受け入れた暢光は、マシューや大会の参加者たちから賞賛された。
世界大会には凛一郎と暢光の2名が参加し、いくつものバトルを経て、マシューとファイナルバトルを戦った凛一郎がチャンピオンになった。しかし、チャンピオンになった凛一郎は、ゲームの世界からも消えてしまった。
息子の凛一郎を助けるために、暢光は息子と一緒にオンラインゲームで奮闘し、凛一郎も暢光を導いていくなかで、一緒に成長していく心温まる物語だった。