これは、サスペンスホラー小説だった。途中で読むのが怖くなり、ページの途中で、他の本を読んで気持ちの切り替えをしてから、再度続き続けた。今まで読んだことのないタイプの怖さだったが、どうなっていくんだろうという興味も募った。
また、最後はハッピイエンドになる小説がほとんどだが、これはそうではなく、恐怖が静かに続いていくことを感じさせて終わるのも興味深かった。
アイヌの人々がカムイと恐れていた伝説があった。
「この森には悪い神様が棲んでいて、ヨモツイクサというあの世の鬼を使って、獲物を捕まえて喰ってしまう。黄泉の森には決しては入ってはいけないよ。ヨモツイクサに食べられちゃうからね。」という言い伝えを、この近隣で生まれ育った人々は代々、物心がつく頃から繰り返し聞かされ、誰もが禁域である黄泉の森に対し強い忌避感を持っていた。
北海道旭川に、アイヌの人々が黄泉の森と恐れる禁域(禁忌の森)があった。
道央大学附属病院で外科医として勤務する佐原茜の実家は、この禁忌の森のそばで牧場を営んでいた。茜には、7年前に両親と祖母と姉が蒸発して行方不明になるという過去があり、食事の用意がされたままだったことから神隠し事件と呼ばれた。
また、黄泉の森をリゾート開発する大手ホテル会社の作業員全員が行方不明になってしまった。建設用重機はも発電機も破壊され、作業員のプレハブ小屋は竜巻でも起きたかのようにめちゃくちゃになっていた。室内からは大量の血痕も発見され、警察は羆の仕業と断定した。
警察は黄泉の森での作業員の捜索に、猟友会に声をかけ羆駆除隊を結成しようとしたが、猟友会会長・八隅と羆猟師の鍛冶のみの参加で地元猟師からは拒絶された。
そのため、他地域の羆猟師と八隅と鍛冶の10人ほどの猟師と警官による捜索が始まった。黄泉の森で、土饅頭にされた作業員の腐乱死体を発見した。
持ち帰った遺体を法医学教室四之宮が解剖すると、多数の光る蜘蛛「イメルヨミグモ」が体内から見つかった。イメルヨミグモは、なぜ光ったのか。
鍛冶と茜は二人で現場に踏み入り、作業員を襲ったと思われる巨大熊・アサヒの死体に出くわした。そこに羆の肉を食べようとして、人とは思えない運動能力を持つ少女が現れた。茜は少女を連れ帰り入院させた。少女の体内には、「卵巣成熟奇形腫」というハンドボール大の腫瘍があった。
腫瘍を取り出した茜は、一人で分析しようとし、腫瘍から人の顔を持つ一匹の巨大蜘蛛が現れてきて、茜を襲った。
ここから事件が核心に近付いていくが、先を読むのが急に怖くなって一旦止めた。
再度駆除隊が結成され、狩猟免許を持つ茜は、神隠しにあった家族を探すチャンスと思い羆駆除隊に参加した。
捜索隊は30人近くになったが、ヨモツイクサという巨大蜘蛛に襲われ全滅に近い状態になってしまった。神隠しの犯人は羆ではなく、ヨモツイクサだった。
ヨモツイクサは巨大熊・アサヒをも襲い食べていた。
生き残った茜は、鍛冶たちとヨモツイクサを狩るために入った廃村で、行方不明だった家族の遺骨を見つける。
ヨモツイクサは、なぜ生まれたのか。誰が生み出したのか。
「ベクター」という謎の存在。
茜はヨモツイクサを追い、ヨモツイクサを生み出したイザナミと戦うことになった。
ラストには、とんでもない事実が隠されていた。
怖いが物凄く面白い小説だった。